きゅうにきちゃった午後のふとん

どしゃぶりの中、シャワーを浴びたようになって走っていたら、とつぜん車から、「傘要らないから持ってって」と傘がつきだされた。

濡れながら、走りながら、家がもうそこだったので感謝だけ言いながら、ちょっと思ったんだけれど、ひとにショックを与えるのは、悪意ではなく善意じゃないんだろうか。しかも思いがけない、ぜんぜん知らないひとからの。

悪意を受けたときひとは、まあそうだろうなあ、と思う。ひとはあくいを向けることもあるだろうなあと。そう、わかってた、この世界は悪意に満ちてる、と。でも善意は解釈不能だ。なんでこのわたしに傘を、と思う。なんのためにそんなことを。善意によって、ショックで、ふるえる。この世界には善意っていうわからないもんがあるんだとおもう。

善意はショッキングだ。家に帰って、濡れたまま、善意をかんがえながらふるえていた。この世界には善意をつきだしてくるひとがいる。急いで今まで生きてきた道をおおざっぱに振り返る。かんがえてみると、(かんがえてみると、)善意によってわたしはここまで生きてきたようなきがして。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター