#1「エチュード」 丸山朱梨

君に名を告げたときから鮮やかな彩りを帯び日々は新たに
ちゃん付けで不意に呼ばれて付与されしスタッカートの柔らかき午後
君に会う日まで数種の練習曲エチュードを重ねてもまだぎこちない恋
突然に傘を差しかけられるから濡れてることに気付いてしまう
赤子産む資格を持たぬ我を抱く ただ火を分ける蝋燭として
初めての逢瀬の後の通り雨コンビニまでを走る君の背
捨てられず玄関にあるビニール傘は君が私を愛した証
結婚の二度目は君と決めたのに婚は一度と決めている君

家族のかたち 丸山朱梨×木滝りま
ふたりのシングルマザーが、短歌→小説と連詩形式でつむぐ交感作品集。歌人の丸山朱梨と、脚本家の木滝りま。それぞれの作品から触発された家族の物語は、懐かしくも、どこか切ない。イラストは、コイヌマユキによる描き下ろし作品。
この記事を書いた人
短歌/丸山朱梨(まるやま・あかり)
1978年、東京都生まれ。歌人。「未来短歌会」会員。小学校5年生の息子がいるシングルマザー。https://twitter.com/vermilionpear

小説/木滝りま(きたき・りま)
茨城県出身。脚本家。小説家。自称・冒険家。大学生の息子がいるシングルマザー。東宝テレビ部のプロットライターを経て、2003年アニメ『ファイアーストーム』にて脚本デビュー。現在、脚本を担当するドラマ『運命から始まる恋』がFODにて配信中。https://www.and-ream.co.jp/kitaki-rima

イラスト/コイヌマユキ(こいぬま・ゆき)
1980年、神奈川県生まれ。イラストレーター。多摩美術大学グラフィックデザイン学科非常勤講師。書籍の装幀やCDジャケットなど多方面で活躍。「Snih」(スニーフ/“雪”の意味)として雑貨の制作も行う。
https://twitter.com/yukik_Snih