虹色のサングラスから始める暮らし

うーん。ミッフィーのフィギュアを買ったら新品なのに頬にすごい傷がついていて、どうおもう? って電話できいた。そればっかりみてる。てにとって。ある日生活のなかに入ってきたすごい傷ってどうおもう? 飾ってずっとかんがえてる。「ねえねえ、もういちど同じのを買う? でももしすごく完全なミッフィーに出会って、次の日からもう満足してきれいさっぱりミッフィーのことをあなたが忘れちゃったらどうする?」「ところでまだ会えないんだっけ」

ときどき、いろんな過去のひとが現在の時間にあつまってくる。わあ、ってわたしは思う。ひとにつたえたい。時間の幽霊屋敷みたいなところにマーティン・フリーマンみたいな暗い表情でたってる。かれが、ドラマでみせる、ああここはまちがった場所でまちがったおれだよな、とおもうときの顔で。たぶんあいすることのできるひとが多く乗った列車にふっと、まちがって、でもただしいやりかたで、乗り継いだようなときの。

そういえば、むかし、不条理作家ペレーヴィンを見たことがあった。雨がふってたけど誰も傘なんてさしてなかった。要らなかった。虹色のギラギラしたサングラスを掛けていて、光を放ちながら、横を素通りしていった。「おっかないもんだね」とわたしはともだちに言った。でもよかったよね。あえて。いつか書くかも。ともだちにいった。それはのこる。きれいさっぱりにならない。会ったから。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター