【第22回】虹のおすそわけ

 子どもの頃から虹を見るのが好きでした。
 いまでも雨上がりには、太陽を背にして虹を探してしまいます。
「虹」という漢字の成り立ちを、ぼくが、いつ、どこで知ったのかはうろ覚えなのですが──、ようするに、こういうことだそうです。
「虫」は、昆虫ではなく「蛇」のことで、ひいてはそれが「龍」を表す。そして「工」は「つらぬく」という意味。
 つまり「虫」と「工」を併せた「虹」は、「天をつらぬく龍」を意味するのだそうです。
 なんだか、素敵ですよね。そういうの。

虹は「天をつらぬく龍」だそうです

 さて、何日か続けて不安定な天気が続いたある日、散歩中に虹が架かりました。
 天をつらぬく龍と出会えた!
 と、ちょっぴり得をした気分で、ぼくはお気に入りの喫茶店に入りました。
 そして、なんとなくスマートフォンでSNSを開いてみたら──、なんと、タイムラインに、たくさんの虹の写真がアップされているではありませんか。
 ハッピーのおすそわけです!
 そんな言葉を写真に付けている人もいました。
 タイムラインを眺めていたぼくは、随分とほっこりしてしまったので、コーヒーの他にデザートまで注文して、いっそういい気分に浸りながら、あらためてタイムラインに目を通しはじめました。
 虹の写真をみんながそれぞれシェアする。
 それは、幸せな気分を分け合うことと同意です。
 そういえば以前、小説にも書きましたが──、目に見えるモノ(物質)は、シェアすると自分の分が減るけれど、目に見えないモノ(心、感情など)は、シェアするとむしろ増えるんですよね。
 つまり、「虹」を見たときの「幸せな気分」をシェアするという行為は、「幸せな気分」の絶対量をこの世界に増やしていくことであって、それって、もしかすると、SNSのもっとも素敵な使い方のひとつなのかも知れません。
 さらに言うと、「シェアの精神」を持った人が、ぼくのSNSつながりのなかに、こんなにもたくさん居てくれるということを、素直に嬉しく思いました。せっかくなら、そういう人と人とのつながりのなかで生きていたいですから。
「人の間」と書いて「人間」ですもんね。
 どんな人と、どんな人の「間」に、自分が居られるか──。
 それは、人生を大きく左右する事案に違いありません。
 ぼくは喫茶店の窓から雨上がりの風景を眺めました。
 濡れた歩道を歩く、見知らぬ人たち。
 この人たちもみな、人と人との間で一喜一憂しながら生きているんだよな。もしも彼らがSNSをやっているのなら、そのタイムラインにたくさんの虹が架かっているといいな。
 そんなことを考えながら飲むコーヒーは、もちろん、いっそう美味しいわけで、これもきっと虹をシェアしてくれた人たちからのプレゼントの一環なのです、はい。
 なんか、今回はいいことを書いちゃったナ。
 でも、本当に、そう思います。
(写真は全て筆者撮影)

この記事を書いた人
森沢 明夫(もりさわ・あきお)
1969年、千葉県生まれ。小説家。早稲田大学卒業。
吉永小百合主演で映画化された「虹の岬の喫茶店」をはじめ、有村架純主演の「夏美のホタル」、高倉健主演の「あなたへ」など、映画やドラマとして話題になったベストセラーが多い。また、エッセイ、絵本、作詞なども手掛けている。近刊には「おいしくて泣くとき」「森沢カフェ」「ぷくぷく」「水曜日の手紙」「雨上がりの川」などがある。