犬のしっぽ無花果のパンたべようかな

Googleのストリートビューから、たまたま、こっちを見てる犬、をさがしだして、あつめて送ってくれるひとがいる。もういいよ、と言っても、ときどき来る。いいな、とも時々思う。いろんな、いい。

みんな洩れなく、こっちを見てる。かれら(犬たち)はリビングの窓ごしに、かたむいた犬小屋の奥から、おしっこするしせいで、こちらをみつめている。ストリートビューの車が、かれら(犬たち)の生活のまえを、たまたまよこぎってしまったのだ。大事なときに。かれらははっとして、こっちをみてる。だれがなんのためにこの世界にこんなことをしてるんだ、と。地図なんていらない。おれたちは犬なんだ。

そして、リビングでのねむりを、飼い主が帰ってくるためのひとりあそびを、まだ途中のおしっこのつづきをする。つづきって好きなんです、と犬たちは思う。犬にもつづきがあるんです、あたりまえです、と。かれらが懸命にしていたことの続きをする(かれらとは犬たちのことです)。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター