チャンス 八月もバームクーヘンで眠る

家具のカタログを読んでいたら、毎日が眠るチャンスです、と書かれていた。ひとに薦めたら、あれにはそんなこと書いてなかったですよ、毎日が「かたづけ」のチャンスです(もちろん明日も)、とは書かれていたけれど、と言っていた。ふーん、そうなの、と私は思った。どっちにしてもひとにはチャンスがたくさんある。

本が出て一年たったけれどまだ眠ってる、けっこう意外に深くねむったりすることもある、目覚ましなんかはぜんぜんきかない、起きてから会いたいひとに会いにいけそうなきもちにふっとなったりもするけれど、それもそんなきがするだけ、そこからもう一度ねむったりする、電気を点けたまま。

時間はわからないけれど、ふっとめがひらいたとき、禅のお坊さんのラジオが流れていた。「帰りなさい、と言われてそこで帰っちゃうひともいるんだけれど、もう少しその姿勢のままで待つんです、そうすると門がひらける」 そこからまたふわっとねむる。本が出て一年たったけれど、まだ眠ってる。ひとなんだから眠るのはあたりまえでしょ、と何度かこれまでひとから言われたことがある。砂糖が多めでもいいから甘いものが食べたい。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター