【第27回】街でも出会える野生動物

 我が家は東京湾の最奥部、いわゆるベイエリアにあります。
 南風が吹くと潮の香りがするようなところです。
 大都会ではありませんが、建物が密集した住宅地なので、正直、自然はほとんど残っていません。
 まだぼくが子供だった頃は、少しだけ森があって、湿地もあって、田畑はけっこうあって、野池もあって、そこそこ野遊びを楽しめたものですが、いまは雨後の筍のように林立したマンションに取って代わられました。都心からのアクセスがいいため、人口爆発を起こしたのです。
 ところが──、
 そんなコンクリートとアスファルトだらけの街になりつつも、散歩をしていると、ふと思いがけない野生動物と出会うことがあります。
 つい先日の夕方も、ぼくが自宅の目の前にある駐車場を通りかかったとき、2匹のタヌキがまるいお尻を振りながらテケテケと歩いていました。
 そっと近づいていくと、気づいた2匹は慌てて走り出し、なんと我が家の門の下の隙間をくぐりぬけて庭へと入っていくではありませんか。
 まさか、うちの庭がタヌキの通り道になっているとは……。
 それにしても、コンクリートとアスファルトだらけのこの街の、いったいどこに巣穴を掘って繁殖しているのでしょう?
 ほんと、謎です。
 一方、人家の屋根裏などに入り込んで営巣し、そこで繁殖してしまう害獣もいます。
 最近、テレビでもよく目にするハクビシンです。
 おでこから鼻先にかけて白い筋が入っているジャコウネコ科の外来種なのですが、じつは数年前、我が家も屋根裏に入り込まれてしまい、大変なことになりました。
 猫くらいの大きさがあるので、屋根裏で走り回られるとドタバタうるさいうえに、タヌキと同様、必ず同じところに糞尿をするので、寝室の天井にシミができてしまったのです。
 このまま糞尿の重さで天井が抜けては困るので、仕方なく業者に駆除(天井に入り込む穴を塞いでもらう)をしてもらい、糞尿が積み上がっていた屋根は、はがして交換するハメになりました。
 そんなわけで、ぼくはハクビシンには恨みがあるのです、はい。
 夕方、散歩をしていると、ときどき電線の上を歩いているハクビシンを見かけます。見かけると、ぼくは視線で「こんにゃろ~」と怒りの念を送ります。
 徹夜で原稿を書いているときに窓の外から「ギュッ、ギュッ、ギュッ」とハクビシンの鳴き声が聞こえてくると、なんだか嘲笑われているような気がして腹が立つのですが、外に向かって怒鳴るわけにもいかないので、「さあ、出でよ、近所の犬や猫たちよ! 力を合わせて奴と戦うのだっ!」と心のなかで念じています。
 ここ数年、ぐっと数が減ったように思えますが、夜になるとフクロウの鳴き声が響き渡ることもあります。フクロウって、森にしかいないイメージがありますけど、ときどき住宅地の方にまで飛んでくるようです。ハクビシンと違って、フクロウの鳴き声には情緒があって、じつにいいものです。
 さて、これもつい先日のことですが、近所を散歩していると、住宅地のなかに残された小さな畑に、たくさんの動物たちの足跡があることに気づきました。
 近づいてよくよく観察してみたところ、どうやらこの足跡を残した動物は1種類ではないようです。

色々な足跡が残された畑

 いったいどんな動物たちが、この畑の上を行き来しているのかな──。
 想像しながら畑の写真を撮って、再び歩き出すと、生物が好きなぼくの気持ちはほっこり和んでいるのでした。
 あ、もちろん、ハクビシンだけは、ぼくの想像の世界からも除外しましたけどネ。
(写真は全て筆者撮影)

この記事を書いた人
森沢 明夫(もりさわ・あきお)
1969年、千葉県生まれ。小説家。早稲田大学卒業。
吉永小百合主演で映画化された「虹の岬の喫茶店」をはじめ、有村架純主演の「夏美のホタル」、高倉健主演の「あなたへ」など、映画やドラマとして話題になったベストセラーが多い。また、エッセイ、絵本、作詞なども手掛けている。近刊には「おいしくて泣くとき」「森沢カフェ」「ぷくぷく」「水曜日の手紙」「雨上がりの川」などがある。