彗星がふってくる日はオムライス

さいきんずっとムーミンを読んでいる。今何読んでるんですか、ときかれて、ムーミンと答えると驚かれることもある。でも嘘はつけない。嘘はつけないし、たびたびムーミンの時期がくる。「恋したこととかあるんですか?」ともきかれた。私は答える。「じぶんでも驚くくらいたくさんしました」

ラジオで戸田恵子さんが、じぶんは長いこと声の仕事をしてきて、ばしゃばしゃうまく泳げなかったり、立ち泳ぎのまま止まったりしちゃったこともあったけれど、ともかく岸には上がらなかった、それだけがじぶんが今ここまできて言えることです、と話していた。

どんなことがあってもともかく岸にはあがらなかった、川のなかでどんな流れでも泳ぎつづけた。そんなふうにいえる日がくるだろうか。ほんのなかでは日曜に彗星がくるという。荷物をまとめて谷のみんなが走り出す。でもムーミンが口にしたのは「さいごの瞬間になんとかなるって」


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター