ねえ似てるんだけど、ではじまる手紙

タルコフスキーの映画『惑星ソラリス』には、宇宙船の中がとつぜん無重力状態になり奥さんや家具といっしょに浮かびあがるとてもすてきなシーンがあるのだが、二人が宇宙船の書斎をくるくると浮かび続けるなかで、とつぜんブリューゲルの絵が挿入される。雪の大地でみんなで狩りをしている農村風景的な絵が。

いま・うちゅうなのに、むじゅうりょくなのに、奥さんとふたりうかんでいるのに、なんでここでブリューゲルなんだろう、と昔からこのシーンを観るたびにずっと思っていた。

でもこないだふっと観返していて、これは、わたしは土をわすれない、ってことなんじゃないかなと思った。宇宙に出た、無重力だった、わたしたちは椅子やテーブルや燭台といっしょに浮かび上がった。でも私たちはそれでも土をわすれない、重力をわすれない、わたしに重くのしかかるちからをわすれない。

死んだ奥さんはソラリスの海からなんどもなんどもおくられてくる。そのたびにわたしは愛のしかたを問われる。わたしが地球で足をつけてたっていた頃の愛のしかたを海が訊いてくる。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター