聞いたことを話すこと次の日にはわすれていること

ときどき、詩が、きょう聞いたことを話すこと、そして次の日にはもう忘れてしまっていること、そんなことだったらいいなと思うことがある。

わたしがきょうそこにいた、と、わたしがきょうそこにいなかった、のまんなかにあるような。あなたのきょうに圧をくわえず、わたしもさっき目をさまして起きたばかりだったかもしれず、でもとても大切なことをその時間だれかがしていたかもしれず。

糸井重里さんの『ともだちがやって来た。』を読んでいたら、糸井さんの『MOTHER』というゲームの大事な部分のほとんどは、話すことばと、聞くことばを考えることだった、と書いてあった。そしてそれをした、と。

この世界には、話しことばだけでなくて、聞きことば、みたいなものもあるんだと思う。聞きことばでつくられていく世界。わたしとあなたの中間の、でも、なにもかもがあるような、わたしがその日聞いたことば。それを誰かに話して、ちょっとした詩になる。つぎの日にはみんな忘れてしまう。

わたしがきょうしたのはあなたの話を聞いたこと。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター