「いちごの反対語はごはんよ」

「さいきんどういうわけかほんとうにいちごのことがわすれられない。いちごコーナーにまいにちいってまいにちたべているけれど、家に帰ってもいちご狩りのことをしらべたりしてね、いちごを食べたあとの手で。あるいは買い物しているときにじぶんでかいすぎたかなとおもうくらいいちごをかっているところをそうぞうしてみたりする。どういう感情にじぶんはなるのかなって。昔好きでいてくれたひとがこんなじぶんを見たらどうおもうんだろうとかね。でもそのひとが単位じゃない。そこで単位になってるのは、苺だよ。あとね。なにかじぶんはかいわすれてるとおもったらいちごだったりしたこともある。いちごをわすれたな、って。でもたぶんそれはそのときだけじゃなくて、もっと前のぶんもふくめて、ほんとうにおおくのいちごのことをじぶんは忘れてきたんじゃないかな。そういうとき、なんだか自分が、あぶれてる、ようなきもちになることがある。じぶんはいまあぶれている、って。いちごのことをたまに書くからか、いちごからは慎重にきょりをとっていたのに、どうしてか、なんだかきゅうにいちごにはいっていってしまって、いちごっていうものはじぶんがかんがえていたよりもおおきいよ、とても」


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター