愛未満しらない人にあいにいく

山頭火を読んでいたら、愛のことがふときになった。山頭火って愛のことしってたのかなあしらなかったのかなあ、もし山頭火と愛をめぐって話しなさいといわれたらわたしはなにを話すんだろう、愛になりそうでならなかった愛のきんちょうについて、愛未満の思い出、まったくそうじゃなかったときに愛のまんなかについてかんがえたこと、しらない愛。愛にかんしていろいろきになった。自由律と愛のかんけい。

自由律といえば、せきしろさんのこんな句が好きだ。

  花の蜜を吸って歩いて吸って歩いて
    (『バスは北を進む』)

ここには、なんていうか、えいえん、がある。たぶんこのひとは、えいえんということをしっていて、花の蜜を吸って歩いて吸って歩く。でもどこかで花の蜜が尽きることもしっている、それでもあるく、あるきつづける。えいえんにとてもちかい場所にいるんだけれど、えいえん未満にとどまっている。すこしそれは愛にもちかいんじゃないかとも思う。あるくこと、うけとること、あるくこと、いきること。えいえんとえいえん未満。

愛ってなんだろうなとは思わない。そのことで電話もかけないし、手紙もかかない。だれかのてをわずらわせない。でもときどき、愛について話してみたら、じぶんも愛をこんなふうにかんがえてみたよ、というものに出会うことがある。それはことばだったり風景だったりふとした手だったりする。わたしはその日、朝早くからデニーズにいて、それからふっと日暮里の山頭火の句碑のある本行寺までひとりで出かけてみた。とちゅう、愛のことをまた考えた。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター