でたらめな星にてをふるはるのよる

これまでときどき試みていたことなんだけれど、今ならもうできるのかなあと思って、また英語で『ムーミン谷の彗星』を読み始めた。わたしはときどきそうやって、ひとりのときに『ムーミン谷の彗星』を英語で読んでいた。なにもかもわかるわけじゃないけれどともかくわかるのは、谷をすれすれに彗星がつきぬけていったことで、ムーミンたちは、すれすれのきょだいなころがる星を目撃することになる。いのちをすう星だ。

この物語でムーミンはスナフキンにはじめて出会う。そしてみんなにスナフキンを the world’s wanderers と紹介するシーンがある。これをわたしは、「このひとは世界的にふらふらしているひとです」と訳してみた。このひとはこの世界を出たり入ったりしています。しかしわたしのとても大切なゆうじんです。わたしはかれのふらふらからとても多くのことをおそわることもあるし、かれとそのことについて話し合うこともあります。かれと別れるとき、わたしはいつもてをふります。みんなのときも、ひとりのときも、みえなくなるまでわたしは今もあるこのてをふりつづけます。

そこまでムーミンは言ってないけれど、わたしにはそうきこえた。世界レベルでかれはふらふらしていたが、ある日ムーミントロールにであった。てをふってくれるひとにであったとも、いっていい。風がつよくなってくる。かつては星だったこの谷に、星が近づいている。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター