蝸牛ねむるとふとくなるまぶた

「ものもらいになってしまってまぶたがどんどんふとってるかんじがするよ」とゆうじんが話していた。「まぶたがおもたいのよ」

「こないだ、バスの終点に着いたのに降りずにねむりこんでまるくなったまま誰にも起こされずにそのままバスの車庫に連れていかれるひとを見たんだけれど、ああいうひとはあのままどんな明るさや暗さの車庫に着いて、どんな起こされ方をするんだろう」
「きっとすこし光のある車庫について、車掌さんからやさしく起こされるでしょう。もうほんとうに着いたんだよ。起きなさい、って」

むかし、ゲームで、勇者が母親から起こされるいちばんさいしょのセリフを思い出した。さあ起きなさい、きょうはあなたがはじめてお城へゆく日だったでしょう。勇者は母親から起こされまぶたをひらく。

みんなうまれたときからもっているまぶた。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター