この地球に今も猫は飛来している

猫っていないことがほんとうなんだよね、と言っていたひとがいた。いるとかいないでわけたら、どっちかというといないほうにいるいきものなんだよね。

猫はいまこのしゅんかんもどんどんこの星に飛来しているという説がある。猫をうむ惑星があって、そこから決まった速さと決まった強さで、この地球にやってくる。数人のパイロットたちはそのことをしっていて、ときどき日誌に書いているひともいる。星と猫のことを。でも次の日にはけしてしまって、いなかったことになっている。

猫はときどきわたしたちにその星のこと、その星からこの星にくるまでに感じたことを話そうとするが、どうしてもこの地球の重力がにゃあしか言わせない。地球のちからは猫ににゃあしか言わせないようにする。ほんとうは猫は、あなたにどうしても話したいことがある、と話しているんだけれど。

ときどき星に帰ってゆく猫もいる それはじぶんの意思だ。ひとというやさしいいきものに感謝してかれらは星の速さで飛び立ってゆく。その猫はあんなにこの星にいたのに、もういなかったことになっていて、それがほんとうの猫になっている。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター