柏木 哲夫

第8回 肥満と川柳

 川柳の題材になりやすい「孫ネタ」については、すでに述べましたが、もう一つ「肥満ネタ」というのがあります。「肥満」が川柳の「ネタ」になりやすいのは「痩せたい」と思い、いろいろ工夫するが上手くいかないという現実があるからだと思います。「部分痩せ」という言葉があります。他の部分はともかく、例えばお腹だけ痩せたいという“勝手な願い”を持つのが人間です。「部分痩せ」という言葉はダイエットビジネスが産み出した造語のようです。医学的には人間の体のある部分だけを痩せさせることは不可能だと言われています。川柳を一つ紹介します。
  部分痩せしたい部分が大部分
 肥満に関する川柳でしばしば登場するのが体重計です。例えば
  世界一怖い乗り物体重計
 という川柳があります。体重計を乗り物と表現したのが面白いですね。それと減量に成功していないのを見せつけられるのを「怖い」と表現したのも面白いですね。それを客観的に突きつける川柳があります。
  キロで増えグラムで痩せる体重計
 減量を目指している人はほんの少しでもそれに成功したという証拠がほしくなります。そこで生まれた川柳
  ピアスまではずして測る体重計
“痩せ願望”がとても強いのですが、なかなか体重が減らない人がいます。そういう人が多いと言ったほうが事実に近いかもしれません。そんな人の作品です。
  痩せてやるこれ食べてから痩せてやる
 このような心がけでは、なかなか減量は難しいでしょうね。世の中には、もう少し何とかならないものかと思うほど太っている人がありますね。そんな人がエレベーターに乗ってきた時にできた川柳
  二人降り一人乗ったら鳴るブザー
「肥満ネタ」には、やや「品が悪い」川柳があります。私の作ではありませんが、一つ紹介します
  目は一重あごは二重で腹は三重
 ホスピスでは毎年クリスマス会を開いています。一つの目的は食事をしながらスタッフの親睦をはかること。さらに日頃お世話になっているボランティアの方々を招待してお礼をすることです。この会で恒例になっているのが川柳大会です。あらかじめ応募してもらっていた川柳を私が選者になって、入選者には賞品(かなり豪華?)をわたすことにしています。例えば、“ペアでエジプト旅行”。商品は「カイロ二つ」。
 ある年の川柳大会で最優秀賞を獲得した川柳を紹介します。「部分痩せ」ではなくて「部分太り」と言えるかもしれません。
  徒歩通勤自家製大根よく育ち




『柏木哲夫とホスピスのこころ』(春陽堂書店)柏木哲夫・著
緩和ケアは日本中に広がったが、科学的根拠を重要視する傾向に拍車がかかり、「こころ」といった科学的根拠を示せない事柄が軽んじられるようになってきた。もう一度、原点に立ち戻る必要性がある。
緩和ケアの日本での第一人者である著者による「NPO法人ホスピスのこころ研究所」主催の講演会での講演を1冊の本に。


この記事を書いた人
柏木 哲夫(かしわぎ・てつお)

1965年大阪大学医学部卒業。同大学精神神経科に勤務した後、米ワシントン大学に留学し、アメリカ精神医学の研修を積む。72年に帰国後、淀川キリスト教病院に精神神経科を開設。日本初のホスピスプログラムをスタート。93年大阪大学人間科学部教授に就任。退官後は、金城学院大学学長、淀川キリスト教病院理事長、ホスピス財団理事長等を歴任。著書に『人生の実力 2500人の死をみとってわかったこと』(幻冬舎)、『人はなぜ、人生の素晴らしさに気づかないのか?』(中経の文庫)、『恵みの軌跡 精神科医・ホスピス医としての歩みを振り返って』(いのちのことば社)など多数。