ミルキーウェイたぬきの借りた舟にのる

自転車に乗って走っていたら、たまたま狸展の催しの前をとおった。狸に会えるときには狸に会っておきたくて、自転車をとめ、まちの民俗資料館の中に入った。

陳列された狸たちを見ていたら、北野勇作さんの『昔、火星のあった場所』に出てくるたぬきの会社のことを思い出した。たぬきの部長がいう。「ひょっとしたら、わたしたちはなんだか泥船に乗せられているのかもしれないね」

さいきん、理解ってなんなんでしょう、と唐突にきかれることがあった。りかい。理解のことを考えるとき、わたしはなぜかいつも狸たちのことを考えてしまう。山や野にいる狸のことではない。昔話でもやされしずむたぬきでもない。ある星にみんなで移住することになった狸のことをわたしは考えてしまう。どうしてそんなことを考えるのかじぶんでもわからない。だから星と狸と狸を運んだ舟のことは胸のなかにしまっている。にんげんに黙って狸は舟に乗り込む。舟に狸はいっぱいいて、あんしんもしていて、理解とは関係しないで、舟はまっすぐ星のなかを星にむかってすすんでゆく。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター