とてもこまるよ青で満席の空

さいきん、俳人の阿部完市の色紙を買った。

  いもうとと飛んでいるなり青荷物

という句が入ったもので、落款は無いからほんものかどうかはわからない。次元をただようような字で、完市と書いてある。市のしたに降りるまっすぐな線はスリップしていくように、ほそく、ながく、きえてゆく。

さいしょ、「青荷物」が「青い物」に見えてドラえもんの句なのかと思った。いもうとと青いものが飛んでいる。羽根、重力、はもんだいでない。いもうとは青いものといっしょに飛ぶことにきめて、いま飛んでいる。阿部完市は不思議な句が多いが、その不思議は不思議だという前に、もう飛んでいたりする。わたしたちはいもうとと青いものの後を追いかける。

みじかい、というただそれだけのジャンルがあるんじゃないかとふとおもう。俳句とか川柳とか詩ではなくて、みじかい、というジャンル。この世界で生きていて、ときどき少しくるしんで、眠って、ひとからさけられたり寄られたりして、星やブロック、めっぽう明るいコンビニの品々、電車、きちんとした服ではたらくひと、自転車から振り返った木、病院のいちばんたかい部屋のまどの明かりをみて、ふっといっしゅんだけ、みじかく、くちやあたまやむねをついてでたもの。すぐはじまってすぐおわったもの。ジャンル、みじかい。そういうものがこのせかいにはときどきあるんじゃないかと、おもう。

  かるい百人朝空からおりてはたらく  阿部完市
    (句集『にもつは絵馬』)


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター