柏木 哲夫

第9回 ゴルフと川柳

 56歳の時、ゴルフを始めました。当時ホスピスでの臨床と大学での教育、研究という二足の草鞋わらじを履いており、かなり忙しく、運動不足を痛感していました。56歳で少しはゴロゴロする時間も必要かと思ったからです。初めのうちは、うまくボールが上がらず、文字通りゴロゴロ転がるばかりでしたが、少しずつスコアもまとまるようになりました。その頃新聞の川柳欄にゴルフに関する川柳が時々載ることに気づきました。そこで、ゴルフ川柳に挑戦することにしました。その頃の川柳を一つ紹介します。
  性格の歪みが曲げるティーショット
 スポーツの中でゴルフが最も頻繁に川柳の場に登場すると思います。その理由はプレーヤーの心理が、かなり複雑に結果に結びつくからでしょうか。「ゴルフ川柳」という題の書物が数種類出版されていることからも、このことがわかると思います。『ゴルフ川柳』(見川文雄著、碧天舎)なる書物から3つほど紹介いたします。ゴルフをする人の共通の思いは「思い通りにいかないなあ」というものだと思います。午前中、あまり調子がよくなくて、「よし、午後は頑張るぞ」の思いも達成できなかった時の川柳
  午後に掛け次回に掛けて今日も終え
 ゴルフは贅沢なスポーツだと言われます。確かにプレー費はそんなに安くありません。良いスコアで終えることができた時には費用はそんなに気になりませんが、たくさん叩いた時は川柳でも作って「うさ晴らし」が必要なこともあります。
  プレー費を打数で割れば安いもの
 スコアがまとまらないのは自分が下手なだけなのに、何かと理由を付けたがるのが、ゴルファーの常であるようです。スタート前から、「ちょっと足首をくじいてね」と予防線をはったりします。
  言い訳は痛み・雨・風・パートナー
 ゴルフの良い点は歳をとってもプレーができることだと思います。105歳まで生きられた日野原重明先生(聖路加国際病院名誉院長)はゴルフ好きでした。100歳になってもコースに出ておられたようです。学会でお会いした時「ゴルフ川柳」のお話をしました。しばらく経って、先生からお手紙をいただきました。「私が創ったゴルフ川柳を披露します。『古池や蛙飛びこむ水の音』になぞらえて、池越えやしっかりだふり水の音」とありました。思わず「お見事!!」と叫びそうになりました。多彩な才能を持っておられ、多方面にわたる活躍をされた先生ですが、川柳の才能を持っておられたことはあまり知られていないかもしれません。




『柏木哲夫とホスピスのこころ』(春陽堂書店)柏木哲夫・著
緩和ケアは日本中に広がったが、科学的根拠を重要視する傾向に拍車がかかり、「こころ」といった科学的根拠を示せない事柄が軽んじられるようになってきた。もう一度、原点に立ち戻る必要性がある。
緩和ケアの日本での第一人者である著者による「NPO法人ホスピスのこころ研究所」主催の講演会での講演を1冊の本に。


この記事を書いた人
柏木 哲夫(かしわぎ・てつお)

1965年大阪大学医学部卒業。同大学精神神経科に勤務した後、米ワシントン大学に留学し、アメリカ精神医学の研修を積む。72年に帰国後、淀川キリスト教病院に精神神経科を開設。日本初のホスピスプログラムをスタート。93年大阪大学人間科学部教授に就任。退官後は、金城学院大学学長、淀川キリスト教病院理事長、ホスピス財団理事長等を歴任。著書に『人生の実力 2500人の死をみとってわかったこと』(幻冬舎)、『人はなぜ、人生の素晴らしさに気づかないのか?』(中経の文庫)、『恵みの軌跡 精神科医・ホスピス医としての歩みを振り返って』(いのちのことば社)など多数。