会いましょうの隣にあったごめんなさい

綾波レイは「おはようってなに?」とひとにきいたことがある。
こんな川柳を思い出した。

  おはようございます ※個人の感想です  兵頭全郎(『n≠0』)

「おはようございます」は「個人の感想」なのだという。絶対的なものではなくて、わたしがそうと心に決めればその日によってカラーが変わったりする。嬉しいものだったり、悲しいものだったり、新しかったり、ぼろぼろだったりもする。わたしによって、ちがうもの。

リチャード・ブローティガンの『西瓜糖の日々』で西瓜糖の世界で暮らすわたしは「ここではなんだって川と呼ぶのだ」と述べている。この世界ではおはようございますもたぶんときどき川に見える。一方、『アメリカの鱒釣り』では、すべてがアメリカの鱒釣りに変換されながら世界が語られるが、その中でおばあさんが鱒の小川と間違えられたりもする。ブローティガンの世界にも絶対はなく、「個人の感想」の度合いによって世界は万華鏡のように姿を変える。

『アメリカの鱒釣り』は、「マヨネーズ。」ということばで終わる。その終わりはきっと、わたしのこころがそうと決めたこと、の終わりなんだと、おもう。もしもう終わりだと思っても、それは「感想」でしかなく、「川」でしかなく、「マヨネーズ」でしかないのだ。ときどき発見されるが、希望はそんざいする。マヨネーズ。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター