ラメ入りの八月すきなひとといる

前田敦子についてゆうじんと話をしていた。

「黒沢清の映画の主演をしている前田敦子みてたんだけれど、前田敦子ってふしぎなひとだよね。表情のゼロの場所というか。あついでもつめたいでもなく、なにかをほしそうでもだれかをすきそうでもなく、少しふてくされてもいるけどでもそこに怒りがあるわけでもなく、生活感もなく、でも宇宙までとんでいるということでもなく、なんというかふしぎなかんじというしかない」

「なんだか、ラメ入りのスーパーボールをもってるリチャード・ブローティガンみたいなかんじなんだよね。ブローティガンのことをおもいだすといつも『西瓜糖の日々』のあのフレーズを思い出すよ。

  アイデスでは、どこか脆いような、微妙な感じの平衡が保たれている。

私たちの気に入っている前田敦子もそんなかんじなんだよね、なんだか」

「うーん。わたしがみたのは黒沢清の前田敦子じゃなくて、山下敦弘監督の前田敦子だよ。だからあなたがいおうとしていることとまたちょっとちがうのかも」

8月。ときどきエイリアンみたいな冷やし中華の夢をみることがある。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター