永久歯の周辺にある秋ですね

恋愛ってなんだろう。

岩松了さんが、恋愛は二人だけでは成立しないことをそれでも選んでいって破滅する行為に近い、とも言っていた。

恋愛って、ふたりでおろかなことをすること、このひととなら一緒におろかなことをしてもいいなってひとをさがすことでもあるのか。
こんな歌を読んだ。

  恋人のまつげの浮かぶサイダーを飲んで愚かな水槽になる  谷川電話
  (「サマー、ゴリラ、永久歯」『角川短歌2021年9月号』)

こいびとのぜんぶをうけとめつつ、わたしがおろかであることもうけいれてゆく。こいびとをたべながら、こいびとにたべられながら。おろかとはなんなのか問いながら。

こいと、おろか。

おろかの限界のようなところを二人でのろのろと歩いていく。そのとき世界は二人きりで、やがてだれかが、おろかな、とつぶやく未来がそこまできているが、二人はおたがいちゃんときがついてもいて、でもこれがわたしたちの生活かもしれないからともおもっていて、やがて終わるかもしれないけれど、とりあえずは今このおろかで完結した二人として、歩いていく。

二人以下とも二人以上とも思えずに、このふたりで。崖ともホームともおもいながら。

  終電の連結部分で恋人を異常なぐらいじっくりと見る  谷川電話
  (『恋人不死身説』)


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター