みずうみにふたり浮かんで再放送

映画『バベットの晩餐会』がテレビでやっていた。

宗教上の理由で食べることを楽しんではいけないと思っているひとたちが、おいしいものを食べているうちに、ひかったように、つながっていく。

ものを食べてほほえんじゃいけないのに、きづくと味わいながらほほえんでいる。舌がおいしいものにふれ、ひかりのなかでワインを飲み、だれかがオルガンで賛美歌をひき、手と手をとりあい、夜中、輪になってダンスする。神とか、光とか、でなく、ひととひとが愛にコンタクトし、りかいする。おいしかったね。

たまたま前日、ノルウェーの写真家で拒食症の女性のドキュメンタリーもやっていた。 たべものの愛し方をおしえてほしかった、とかの女は言った。「食べるパンがだんだんうすくなっていきました」とかの女の母親が言った。かの女はかの女のからだを写真におさめつづける。

食べること、愛すること、テレビと写真の光り。

おいしいは光なのかどうか考えながら、幾つか、夜を過ごす。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター