《運命の人と》 花筐 ~Hanagatami~
 2002年の春、ゴスペラーズのリーダー、村上てつやさんから曲が届きました。珍しく「花筐」のタイトルがついていたのです。
 村上さんとは、素晴らしいアカペラコーラスのグループが登場したよ、と紹介されてから私がファンになり、2001年に南アフリカから私がミュージシャンを招いた時、コンサート会場に来てくださり、その後なんとなく何か私に曲を、ということになったのです。
 曲を受け取った後、打ち合わせのためにお会いすることになりました。もう大ヒットが出てスターの座にいた人でしたから、私は大張り切りで迎えたのでした。
 タイトルの「花筐」について彼はこう説明してくれました。
「これは、花籠という意味の言葉ですが、もうひとつ、棺という意味があるらしいんですよ」
 この年の春は、藤本の病状も深刻な状態でしたから、本当にハッとしたんです。
 村上さんはもちろん何も知らないはず。でも、こう聞いた瞬間、この歌が私にとって決定的な歌になるという予感を持ちました。この運命的な偶然と「花筐」という言葉の力に奮い立ち、私は早速、歌詞を付けました。別れの歌であり、それが何かのスタートであるような力のある歌に、と。
 レコーディングは南アフリカから来ていたベーシストのシブシソ・ヴィクター・マッソンド、ピアニストのテンバ・ムキーゼ、ドラムのアイザック・ムチャーリー。日本からはギターの告井延隆が加わったメンバーでした。
 まず最初に私の歌った歌を村上さんに送ったら、音符と歌詞の乗せ方を全部変えたい、と連絡があり、スタジオで彼の歌を録音することになりました。
 この時の村上さんの厳しい要求は素晴らしかった!
 やっぱり歌詞の譜割りでリズムの乗りが全然変わってくるので、私にとっては新しいタイプのレパートリーになったのです。
 私のヴォーカル録りの後には、ゴスペラーズの素晴らしいバックコーラスが入り、コンサートのフィナーレを飾るような一曲が生まれました。
 この曲をタイトルにアルバムのレコーディングを決め、スタートしたのが7月。藤本を見送った時はまだ仕上げの途中でした。
 藤本の葬儀にはゴスペラーズの皆さんが来てくださり、村上さんは、その時初めて、「花筐が棺の意味」ということの重大さに想いを馳せてくださった、と思います。
 そのアルバムには、花にまつわるポップスのカヴァー曲が入り、これまでにない私の世界が作れました。
 アルバムはその秋に発売され、私の再出発に大きな力をくれたと思います。
 花は、今年のアルバム『花物語』も繫がる大切なテーマ。
 命であり、愛であり、悲しみであり、希望なのだと思います。

村上てつやさんと「花筐」レコーディングスタジオにて。2002年

(写真は筆者提供)

花筐 ~Hanagatami~
作詞:加藤登紀子 作曲:村上てつや 編曲:告井延隆
別れがくる前に もいちど抱きしめて 
最後のくちづけが 永遠に消えない花筐
遠く離れても 愛を忘れない 
今は泣かないわ こんなにも愛してる
*春が夏に変わるように 夏が秋に変わるように
冬もいつか花の季節によみがえる
何かがはじまるわ 時間は動いてる
誰にも止められない 歩き出した 明日への足音
二人で描いた 夢を忘れない
今も生きている 大切な花筐
*repeat
二人で描いた 夢を忘れない
今も生きている 大切な花筐
*repeat×2

 2021年9月1日発売 3枚組CD『花物語』収録

(JASRAC許諾第9023555003Y38029号) 
この記事を書いた人
加藤 登紀子(かとう・ときこ)
1965年、東大在学中に第2回日本アマチュアシャンソンコンクールに優勝し歌手デビュー。「ひとり寝の子守唄」「百万本のバラ」「知床旅情」「琵琶湖周航の歌」などヒット曲がある。N.Y.カーネギーホールで2度のコンサートを成功させたのに続き、92年にパリのラ・シガール劇場でコンサートが認められ、フランス政府より芸術文化勲章「シュバリエ」が贈られた。女優として『居酒屋兆治』(1983年)に出演。宮崎駿監督のアニメ映画『紅の豚』(1992年)では声優としての魅力も発揮。2021年、日本訳詩家協会 会長に就任。
公式ホームページhttp://www.tokiko.com 近著に「哲さんの声が聞こえる」(合同出版)「運命の歌のジグソーパズル」(朝日新聞出版)「自分からの人生」(大和書房)。新譜「花物語」(ユニバーサルミュージック)/YouTube「土の日ライブ」毎月11日配信。