星月夜 星はかわらないからね

コンビニのおでんが好きで星きれい  神野紗希(『光まみれの蜂』)

という句がある。このときの「コンビニのおでん」は、夜、帰り道に、ふっとコンビニに寄って、店員のひとに、だいこんとたまごとしらたきと、あと、はんぺんもお願いします、と好きなものだけお願いするかたちだった。それは帰り道のすごくあたたかいもちものになる。星がきれいだし、あたたかいし、もうすぐ家だし、とそういう俳句だったんじゃないか。

だからコロナをすぎて、この「コンビニのおでん」はうしなわれたのかもしれないとおもった。

コンビニのおでんにまつわる雰囲気、感じ方、温度、店員さんとのやりとり、おでんをめぐるコミュニケーションとちょっとしたミス、そして家までのほどほどの距離、そういうもろもろの総体がたぶんこの「コンビニのおでん」にはかつてあった。

宇宙でぱっとこの句が受信されて、その星のひとがこの地球にコンビニのおでんを求めてやってくる。好きになりそうで。でもなんだかもう感じが違う。個別包装されて、ミスもない、清潔な、それはきちんとしたおでんになっている。なにかがちがう。なにかがちがうまま、好きにもなれなくて、船に乗り、星に帰ってゆく。後ろにひとが並んでてレジで焦って牛すじ頼めなかったとかそういうこともなく、ぜんぶ完璧だった。今も昔も星もきれいだ。けど。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター