ことばがこなごなになって星もばらばらのせかいで

星にかんけいしたみんながうろうろしていい演劇がいまからおこなわれるんだ、とわたしは思った。

それから公演がはじまって、わたしはいくつかのものごとをとちゅううろうろしながら、ちゃんと見た。渦巻く星にてをのばしているいくにんかのひとを、しゃがんでみあげるようにみた。おもったよりも、長い抱擁を、ひとりのひととひとりのひとが交わしあっているのも見た。ふたりともお互いをつつむように抱き合っていた。

「ときどきわたしたちはつつまれている」とわたしはおもった。

わたしがきょうやきのう、どれくらいのものをちゃんと見たり、聞いたりしているかはわからない。あなたってふだんちゃんと見てる? とあなたからきっと言われたこともある。でもすごくむかしのことだ。

オレンジ色の陽がぼんやりと差し込んでくる。役者のひとたちが、うろうろしはじめ、ことばの書かれた紙をちぎっては、あちこちに貼りつけてゆく。わたしは腰をあげ、うろうろし、その場にかがんで、それをじっとよく見てみる。「まっててね」とそこに書いてある。そこに書いてあるそれをわたしは見る。


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この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター