せきしろ

#9
想像から物語を展開する「妄想文学の鬼才」として、たとえる技術や発想力に定評のあるせきしろさん。この連載ではせきしろさんが、尾崎放哉の自由律俳句を毎回ピックアップし、その俳句から着想を得たエッセイを書き綴っていく(隔週更新)。9回目は次の2本をお届け。

なんにもない机の引き出しをあけて見る
  大正一四年 『層雲』四年号 念念不離心(一七句)
雨の傘たてかけておみくぢをひく
  大正一三年 『層雲』九月号 わが顔(六句)
放哉の句から生まれる新たな物語。あなたなら何を想像しますか? 

 なんにもない机の引き出しをあけて見る
書留郵便の再配達を待っている間、特にすることがなかった。下手に動いて、郵便局員が来たことに気づかなかったというのは避けたかったので寝転んでいた。
天井によってはあみだくじができる場合があるが、この部屋の天井はあみだくじができないタイプのものであった。もうここに引っ越してきて何度も見ているからあみだくじができないことは知っていた。
この、私が天井を見ているだけの間、私以外の人は仕事をしているのだろうなと考える。だからと言って動き出すことはない。そもそも仕事がないからこうしているのだ。
ならばせめてこの天井を見ている時間を他の何かに充てると良いのではないかとも考えた。仕事に繋がるようなインプットをするのだ。ところが本を読もうかと思うもわざわざ起き上がる気力はなく、映画を見ようかと思うもそれは本を取りに行くよりも過程が多く、ならば天井を見ている方が良いということになった。
ふと見ると手の届くところに輪ゴムがあった。私は輪ゴムを手に取り、天井に向かって指鉄砲で輪ゴムを飛ばした。勢いよく天井に衝突し、私の胸の辺りに落ちてきた。それを拾い、天井に向けてまた飛ばした。さっきと同じくらいの勢いで天井に衝突して跳ね返ってきた。それを数回繰り返していると輪ゴムが狙った場所から離れたところに衝突してしまい、手の届かない場所に落下してしまった。なんとか取れないものかと手を伸ばせるだけ伸ばしてみるも、届く気配はない。なにか棒のようなものでもあれば届くのにと思い、すぐにそこまで輪ゴムに執着しなくても良いかとも思い、相変わらず起き上がる気はないから輪ゴムは諦めた。
再配達はまだ来ない。
天井を見ると、相変わらずさっきと同じであみだくじができないタイプのものである。それは知っていた。


 雨の傘たてかけておみくぢをひく
私は正月の非日常感が好きであるから、12月になるともう正月が待ち遠しくなる。元旦になればできるだけ正月気分を味わおうと思って初詣に行く。外に出た途端に感じる空気の澄み具合も正月ならではだ。
神社に着くと混雑していて参拝の列に並んだ。自分の順番になるまでの間何を願おうか考える。一般的には健康やお金だろうか。受験生は合格を願うだろう。運転手は無事故を願うかもしれないし、不老不死や何か特殊な能力を欲する人もいないとも限らない。
ここであえてどうでもいい願い事をするのはどうか? そんなことを考える。きっと神様は「えっ、そんな願い事でいいの!?」と驚くだろう。それをしたいがためにだけにだ。
たとえば街の小さな中華料理店。いわゆる町中華。店の隅の高いところに設置されているテレビではNHKのニュースが流れている。しかし私は他の番組が見たい。サッカーの日本代表戦をやっているのなら絶対にそれが見たい。チャンネルを替えたいが、私は店の人でもなければ常連でもないからチャンネル権を持っていない。カウンター横に置かれているラップで包まれたリモコンを勝手に使って替えたなら怒られる可能性だってある。
そこで「中華料理店のテレビのチャンネルを自由に替えられるようになりたい」と願うのだ。ある意味贅沢すぎるし、どうでも良すぎる。神様も驚くはずだ。
そんなことを考えているうちに自分の番が近づき、結局周りの人の健康を願おうと思っていたら、目の前に初詣用に設置された大きな賽銭箱的なスペースが現れた。その中に神社の関係者が二人入っていて、大量の賽銭を集めてバケツに入れる作業をしていた。
私は鈴を鳴らして願い事をしたのだが、目の前では賽銭集めは続いていて、この作業している人たちにお願いしているみたいになった。

プロフィール
せきしろ
1970年、北海道生まれ。A型。北海道北見北斗高校卒。作家、俳人。主な著書に『去年ルノアールで』『海辺の週刊大衆』『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』『たとえる技術』『その落とし物は誰かの形見かもしれない』など。また又吉直樹との共著に『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』『蕎麦湯が来ない』などがある。
公式サイト:https://www.sekishiro.net/
Twitter:https://twitter.com/sekishiro
<尾崎放哉 関連書籍>

『句集(放哉文庫)』

『随筆・書簡(放哉文庫)』

『放哉評伝(放哉文庫)』