せきしろ

#10
想像から物語を展開する「妄想文学の鬼才」として、たとえる技術や発想力に定評のあるせきしろさん。この連載ではせきしろさんが、尾崎放哉の自由律俳句を毎回ピックアップし、その俳句から着想を得たエッセイを書き綴っていく(隔週更新)。10回目は次の2本をお届け。

淋しい寝る本がない
  大正一五年 『層雲』新年号 島の明けくれ(三一句)
小さい時の自分が居つた写真を突き出される
  大正一三年 『層雲』一一号 何もない部屋(二八句)
放哉の句から生まれる新たな物語。あなたなら何を想像しますか? 

 淋しい寝る本がない
書店で本を探す。広告で目にしたものや、ネット上で誰かが触れていた本の場合、タイトルや著者名がうろ覚えの時がある。平積みになっていれば見つけやすいが、そうでなければ本棚から探すことになる。
著者名で五十音順に並んでいる棚を端から順番に見ていけば、断片的な記憶と重なる文字列が現れて見つけることができる。まずは「あ」の方から探していくか、あるいは「わ」の方から探すかを選択することになり、できれば「あ」から探していくのが気持ち的にしっくりくるものの、先客が「あ」から探している場合、自分は「わ」から探すことになる。一緒に「あ」から探し始めると探しづらいし、それより怪しい人に思われそうである。そもそも知らない人との物理的な距離を平気で詰められるようなメンタルを持ち合わせてない。
私も先客もお互いすぐにお目当ての本を見つけることができれば良いが、そうではないこともあり、探しながら少しずつ横移動しているうちに私と先客の距離は縮まり、やがて交差することになる。
私はそうなる前に立ち去る。相手に「この人の進路を優先しよう」と考えさせて気を遣わせたくないからであり、「どうぞ」と譲られると同時に私が図々しい奴になった気がしてしまうからだ。もちろん相手も私と同じタイプの可能性があるから立ち去ろうとするかもしれないが、そんな気も遣わせたくないので、「あ、これは交差するな」と察したなら早めに離脱する。
この時、あからさまに立ち去ることはしない。ごく自然に、あたかもお目当ての本がなかったかのように少しがっかりした振る舞いをするか、電話が来たふりをして立ち去らなければいけない。あとは別の棚を見ながら時間を潰しながら先客がいなくなったらまた探し始める。
これが本屋における私のオリジナルマナーである。そのせいで結局目当ての本が見つけられない時もある。


 小さい時の自分が居つた写真を突き出される
隣町に遊園地があった。当時は大きく感じたが実際はこじんまりしたものだったと思う。そこに親戚と行った。叔父や叔母、従兄弟など10人くらいで行った。
ジェットコースターがあって(それも今思えばこじんまりしたものだったはずだ)、みんなでそれに乗ることになった。従兄弟たちははしゃいでいたが、私は怖くて乗りたくなくて逃げた。
次にお化け屋敷に入ることになったのだが、その時にお化け屋敷の存在を知って見るからに怖い建物の中に入りたいわけがなく、私は拒んでまた逃げた。
この2つの行動から、私は怖がりで臆病な子だと言われるようになった。実際その通りであるものの恥ずかしかった。早く忘れてくれないかなと強く願ったが親戚の集まりの度に「あの時遊園地でさあ」と話が始まり、私が逃げた話になって恥ずかしい時間は続いた。
やがて高校を卒業した頃から故郷に帰ることも極端に少なくなり、親戚の集まりにも行かなくなってそれがしばらく続いた。
また行くようになって、その時はもう「はやくあの時の遊園地の話をしてくれ!」と思うようになっていた。懐かしい話をしてみんな懐かしくなって楽しんでもらいたくなっていたのだ。もう恥ずかしい気持ちは一つもなく、自分からその話を振ったりもした。
こうやって恥ずかしかったことや嫌だったことが笑い話になるのなら、もっと自分に素直に行動したり、いろいろチャレンジしておけば良かったと思う。こうなることを見越してメリーゴーランドさえもわざと怖がっておけば良かったさえ考えた。
不意に見せられる昔の写真も嫌だったが、今では平気で、むしろもっと撮っておけばよかったと思う。ちなみにジェットコースターもお化け屋敷も未だに怖い。

プロフィール
せきしろ
1970年、北海道生まれ。A型。北海道北見北斗高校卒。作家、俳人。主な著書に『去年ルノアールで』『海辺の週刊大衆』『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』『たとえる技術』『その落とし物は誰かの形見かもしれない』など。また又吉直樹との共著に『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』『蕎麦湯が来ない』などがある。
公式サイト:https://www.sekishiro.net/
Twitter:https://twitter.com/sekishiro
<尾崎放哉 関連書籍>

『句集(放哉文庫)』

『随筆・書簡(放哉文庫)』

『放哉評伝(放哉文庫)』