未来「あとで読んでるよ」

カフカの『城』でこんな会話がある。すきな会話で、ひをともすように、ここだけ、このここだけを、ときどき、夜にふっと思い出す。

  「あれから、どう変わったの?」「わかんない。なんにも変わってないのかも。あなたがこんなふうにすぐそばにいてこんなふうに静かにたずねるとそんなときは何も変わっていないきがする。でも、ほんとうは、そうじゃない」

このここだけを好きなところってもうひとつあって、アウレーリウスの『自省録』で、アウレーリウスがぽつっという。

  「だってこのほうが心地よいもの。」

ふとんのなかってきもちいいよね。でたくない。私もそう思う。とアウレーリウスはいう。「だってこのほうが心地よいもの。」

ほんって、よみとおすものなんだろうか。ときどき、ぽっとちいさな火をともすように思い出して、記憶のなかで読む、そんなほんのよみかたがあってもいいんじゃないか。この、ここだけの、火と火。


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この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター