《壊された大地の上に》 Revolution
 1989年という年は、第二次世界大戦後の世界が新しい時代に転換することになった年。日本では昭和が終わり平成が始まったのでした。
 私は、その平成の始まった1月8日にパリに向かっていました。
 その旅で私は初めてエディット・ピアフのお墓を訪ね、そのペール・ラシェーズでパリ・コミューンの戦士たちの最後の戦いの場とも向き合い、デビュー以来、なぜか敬遠していたパリの物語が私の中で一気に膨らんだのでした。
 その年はフランス革命から200周年に当たっており、パリで出会った日本の人たちも「ぜひ登紀子さん、パリでコンサートをするべきよ」と言い出して、なんだか、あっという間にコンサートの日取りまで決まり、その夏の7月7日、ユネスコホールで、私はパリで初めてのコンサートを開いたのでした。
 1月の旅からそのコンサートまでに仕上げたのが『エロティシ~謎~』というアルバム。
 ピアフの人生を歌うために作った「名前も知らないあの人へ」と「Pre-Lachaise(ピアフに捧ぐ)」を含む11曲、全て書き下ろしの新曲でした。

1989年発売アルバム『エロティシ~謎~』

 その中で最後にたどり着いた曲が「Revolution」。
 フランス革命から200周年に贈る曲としてよりも、当時の日本でのさまざまな問題への思いをまっすぐに歌った曲、戦後の日本を見渡すような歌になりました。
 あの時「Revolution」という言葉を英語の辞書で調べたら、「Revolt(反乱する)」と「Revolve(回転する)」という2つの動詞に挟まれた名詞が「Revolution」。「反乱する」ではなく、「回転する」の名詞でした。
 太陽の周りを地球が回り、地球の周りを月が回り、季節は必ず移り変わる、というようなこの宇宙の輪廻を指す言葉だというこの発見は私にとって大きかった、と思います。
 この年の6月、北京では天安門事件が起こり、11月にはベルリンの壁が崩壊。これまでの世界の対立軸が大きく揺らぎ、その呪縛から解放されたと言ってもいい89年。
 この時パリのコンサートを聴きにきてくれたフランスの詩人、ピエール・グロスさんが、「僕が詩を書くからフランス語でアルバムを作ろう」と提案。それから彼とのアルバム作りが始まる、すごい展開になるのですが、ピエールさんは私より少し若い、パリの5月革命を経験した「68年野郎」とフランスで呼ばれる世代。そのアルバムの打ち合わせの時、彼が手許の紙に「68」と書いてくるっと回して私に見せたのです。
「『68』を回すと『89』になる!」と嬉しそうに笑った顔が今でも浮かんできます。
 1989年はフランス革命から200年、そして1968年に投げたボールを受け取る年になったのかもしれません。
「Revolution」という歌は今も、うたい続ける大事な歌になっている。もうこの歌をうたわなくてもいい、そんな時代はいつ来るのでしょうか?

パリ・ユネスコホールコンサート

(写真は筆者提供)

Revolution
 作詞・作曲:加藤登紀子
碧い海に かこまれた
小さな国に 生まれ
ふりそそぐ光の ぬくもりの中で
平和な時代に育った
愛をはばむ 戦争もなく
飢えて死ぬ人もいない
捨てるほどのものにかこまれて
ほんとに欲しいものがみえない
400年前の森を切りきざんで
砂浜や川や湖を
コンクリートでかためて 生きものたちを
豊かさの いけにえにしていく
気づかないうちに 何かが変わった
いとしいはずのものたちを
ふとしたはずみで 殺してしまえる
そんな息子たちが今ふえている
※生きてることは 愛することだと
ほんとはわかっているのに
自由なはずの 誰もかれもが
がんじがらめの とらわれ人なのか
La Revolution 夢ではなく
今一人きりで心にきめた
La Revolution 大事なこと
体中で感じるために
La Revolution ながされずに
愛するものを 抱きしめるために
La Revolution 夢ではなく
今たしかに 心に決めた La Revolution
※ Repeat
 1989年10月8日発売 『エロティシ~謎~』収録

(JASRAC許諾第9023555003Y38029号) 

この記事を書いた人
加藤 登紀子(かとう・ときこ)
1965年、東大在学中に第2回日本アマチュアシャンソンコンクールに優勝し歌手デビュー。「ひとり寝の子守唄」「百万本のバラ」「知床旅情」「琵琶湖周航の歌」などヒット曲がある。N.Y.カーネギーホールで2度のコンサートを成功させたのに続き、92年にパリのラ・シガール劇場でコンサートが認められ、フランス政府より芸術文化勲章「シュバリエ」が贈られた。女優として『居酒屋兆治』(1983年)に出演。宮崎駿監督のアニメ映画『紅の豚』(1992年)では声優としての魅力も発揮。2021年、日本訳詩家協会 会長に就任。
公式ホームページhttp://www.tokiko.com 近著に「哲さんの声が聞こえる」(合同出版)「運命の歌のジグソーパズル」(朝日新聞出版)「自分からの人生」(大和書房)。新譜「花物語」(ユニバーサルミュージック)/YouTube「土の日ライブ」毎月11日配信。