「探偵小説」の春陽文庫、再始動!
2022年9月、春陽文庫が池波正太郎の直木賞受賞作品集『錯乱』を復刊したところ大変な好評を博し、定期的な刊行が久しぶりにスタートしたのは、大衆娯楽小説界の大きな事件であった。
司馬遼太郎、柴田錬三郎、山岡荘八、高木彬光らの旧作を復刊するだけでなく、山田風太郎、笹沢左保、松本清張、皆川博子と春陽文庫既刊以外の優れた作品も収録し、そのラインナップは充実しつつある。
筆者は縁あって、刊行する作品の選定アドバイザーを頼まれているのだが、いずれは「時代小説」だけでなく、現代ものの「ミステリ」も出してほしいと、ずっと思っていた。
「ユーモア小説」や「現代小説」も相当数を刊行していたものの、やはり往年の春陽文庫の2本柱といえば、「時代小説」と「推理小説」の2つだろう。さらに以前に日本小説文庫、春陽堂文庫まで遡れば、戦前の探偵作家で春陽堂から著作を出していない人の方が少ないくらいだ。実際、読者からのリクエストも多く、ついに新生春陽文庫の探偵小説篇として、何冊かを刊行できる運びとなった。
横尾忠則さんに装画を引き受けていただき、大正から昭和初期にかけて活躍した作家の、入手困難な作品を、1人1冊ずつお届けしていきたい。読者の支持を得て刊行が続けば、現代の読者はもちろん、数十年後のミステリファンからも、ぜひ読んでおきたい、と思ってもらえるようなシリーズに発展していくはずである。
多くの皆さまから、ご注目とご声援をいただければ幸いである。

文芸評論家 日下三蔵

2022年に再び刊行が始まった「春陽文庫」。
時代小説のラインナップは40作品を越えた2024年秋、“探偵小説篇”が始まります。

≪NEW≫谷崎潤一郎

『金と銀』

文豪・谷崎潤一郎が大正期に書いた珠玉の探偵小説選。
能才は銀、天才は金——芸術家の犯罪!

天才的素質の画家・青野を殺すことによって「銀」から「金」の存在となろうとする大川の姿を描く表題作のほか、「AとBの話」「友田と松永の話」「青塚氏の話」「或る少年の怯れ」の全5編を収録。

≪NEW≫佐藤春夫

『更生記』

天才作家・島田清次郎をモデルに描く文豪・佐藤春夫の傑作推理、70年ぶりの文庫化。
医学生の大場は、ある晩、自殺を図ろうとしている女性を保護する。大場から相談を受けた猪俣助教授は、彼女が心因性ヒステリーであることを見抜き、精神分析を用いて病因を解き明かしていく。

夢野 久作

『暗黒公使』

奇書『ドグラ・マグラ』著者の際たる異色作!
元警視庁の狭山九郎太が、大正時代に起きた国際的秘密組織に関わる大事件「暗黒公使事件」の顛末を語る。
謎の美女や美少年が登場の怪しい世界!

小栗 虫太郎

『女人果』

『黒死館殺人事件』著者の隠れた傑作!
豪華客船を舞台に、さまざまな狂態の極限を自在に描く世界観が醍醐味。
小栗の代表作でもあり日本三大奇書の『黒死館殺人事件』を彷彿とさせる作品。

横溝 正史

『死仮面』

探偵・金田一耕助は、岡山県警の磯川警部から駅前のマーケットで起きた奇妙な事件の話を聞く。殺人容疑者の女が腐乱死体で発見され、現場には石膏のデス・マスクが残されていたというのだ。やがて舞台を東京に移した「死仮面」事件の謎に、金田一耕助が挑む!

甲賀 三郎

『盲目の目撃者』

嵐で沈没した客船ブラジル丸から奇跡的に救出された船医の井田は、帰国後、酒浸りの無為な日々を送っていた。彼はカフェで出会った謎の青年の依頼で、もう一人の生存者である富豪の相続人・民谷清子を訪ね、殺人事件に巻き込まれてしまう……。

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