苺ミルクが季語の世界

すきなひとと一緒にご飯を食べていたら、「顔っていうのは要するにあれは現象なんですね」とそのひとがふっと言ったので、ご飯を食べている時に現象の話なんてしたくないなあと私は思った。

さっき5月がおわったけれど、苺の話なんかがいいなと思った。

たとえばここに苺がありますよととつぜん今ポケットから苺を取り出したら、それは現象の話なんかよりとてもすてきな展開になるんじゃないか。

相手は突然の苺にびっくりする。世界に暴力的にはいってきた、いちご。いちごのじじつしかここにはないですよ、と私は言う。すこしゆっくりいう。たとえどんな世界線になってもかならずわたしはそのセリフをいうことになっている。それが苺的事実だ。


『もともと予報』(春陽堂書店)柳本々々(句)・安福 望(イラスト)
2019年5月から好評連載中『週刊もともと予報-ことばの風吹く-』がすてきなポストカードブックになりました! 24綴りとなっております。1枚ずつ切り離して飾るもよし、大切な方へのお便りに使うもよし、当連載と併せてお楽しみください。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報-ことばの風吹く-』が本になりました。365句の中から104句を厳選。
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この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター