探偵小説の鬼 江戸川乱歩

江戸川乱歩と春陽堂
江戸川乱歩(本名平井太郎、1894-1965)は、「二銭銅貨」でのデビュー以降、「D坂の殺人事件」「孤島の鬼」「陰獣」「パノラマ島奇談」などミステリー史に残る傑作を発表した作家です。翻案小説や評論なども精力的に執筆、戦前戦後にまたがり、幅広い文筆活動を展開しました。
乱歩の初の小説集『二銭銅貨』は、大正14(1925)年、春陽堂の「創作探偵小説集」第一巻として刊行されました。以降、春陽堂は『屋根裏の散歩者』、『孤島の鬼』など、乱歩の小説集を数多く刊行しています。
昭和29(1954)年から刊行を開始した『決定版 江戸川乱歩全集』(全16巻)は、生前の乱歩が自ら朱を入れたものであり、それを底本としたのが、現在のリニューアル版を刊行している『江戸川乱歩文庫』です。この文庫は銅版画家・多賀新さんによる幻想的でエロティックな装画で人気を集め、“乱歩を読むならこのシリーズ!”と、多くのファンに支えられてきました。
2015年から始まったリニューアル版では、装丁はそのままに、かつ文字を大きく読みやすくし、乱歩研究家・落合教幸による新しい解説と充実した旧蔵資料を掲載しています。
文庫の刊行だけでなく、HP上でもさまざまな記事を掲載していますので、お楽しみください。


プロフィール
江戸川乱歩(1894-1965)
明治27年10月21日三重県に生まれる。早稲田大学で経済学を学びながらポーやドイルを読む。様々な職業を経験した後、大正12年、雑誌「新青年」に「二銭銅貨」でデビュー。昭和2年までに「D坂の殺人事件」「人間椅子」「パノラマ島奇談」などを、その後休筆を挟んで、「陰獣」「芋虫」「孤島の鬼」などを発表した。昭和4年の「蜘蛛男」以降、「魔術師」「黄金仮面」「黒蜥蜴」など、娯楽雑誌に長編を連載。昭和11年からは、「怪人二十面相」が『少年倶楽部』連載され始める。少年探偵シリーズは晩年まで続いた。昭和22年に探偵作家クラブ結成されると、初代会長に就任する。昭和29年には乱歩賞が制定され、昭和38年には、日本推理作家協会が認可、理事長に就任した。昭和40年7月28日死去。

<江戸川乱歩に関する書籍>




<江戸川乱歩に関する書籍紹介>
2019年11月15日
乱歩を読む【14】『緑衣の鬼』
本作は、江戸川乱歩によるイーデン・フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」(1922年、以下「赤毛」)の翻案作品として知られる。「娯楽雑誌の連載ものに、その筋を取り入れることを思いつき、あの名作を一層通俗的に、また、私流に書き直したのである」(「あとがき」『江戸川乱歩全集』桃源社)というように、乱歩は通俗作品として独自の趣向も挿入しつつそのプロットを取り入れた。最たる違いは、「赤毛」では連続殺人犯とされるロバートが戦争神経症であるのに対し、本作では嫌疑者の夏目太郎が緑色に…

2019年9月06日
乱歩を読む【13】『悪魔の紋章』
法医学界の権威で名探偵としても名高い宗像むなかた隆一郎りゅういちろう博士の探偵事務所に、助手の木島が半死半生で転がり込んできた。今夜、H精糖株式会社取締役・川手庄太郎の娘が殺される、と言う。木島はたおれ、彼が持ち込んだ靴べらを宗像博士が検査すると、そこには奇怪な指紋が残されていた。1個の指紋に3つの渦巻きがある〈三重渦状紋〉だ。宗像博士も、駆けつけた中村捜査係長も、えたい…

2019年8月19日
乱歩を読む【12】『猟奇の果』
江戸川乱歩『猟奇の果』は、趣向の異なる前編と後編がくっついた奇妙な小説だ。前編の主人公は、青木愛之助と、品川四郎という青年である。ともに異常なものを愛する友人どうしの2人は、突然、「日頃熱望する猟奇の世界」に巻き込まれていく。あるとき愛之助は、人混みのなかに四郎を見つけて声をかける。だが、四郎に見えた男は困惑して「自分は品川四郎ではない」と答え…

2019年7月16日
乱歩を読む【11】『偉大なる夢』
戦時下の日本。五十嵐東三(いがらしとうぞう)博士は、東京・ニューヨーク間を5時間で飛行可能な夢の新型航空動力を発明する。その秘密設計班の中に、アメリカ大統領・ルーズベルトの密命を受けたスパイが潜入していた。そして遂に、研究ノートは奪われ、博士にも魔手が迫る。「世紀の怪物」と呼ばれるスパイの意外な正体とは。そして、ペリー来航に端を発する大陰謀とは何か…

2019年6月11日
乱歩を読む【10】『暗黒星』
「十六ミリの映写」の最中、画面に大写しになった人物の顔が燃えてしまう変事と、長男・一郎が見たという恐ろしき悪夢を前兆として、「奇人資産家」として知られる伊志田鉄造の一家に襲いかかる惨劇の数々。家族の身を案じた長男の依頼によって明智小五郎が屋敷に赴くも、神出鬼没の怪人は名探偵の誉れ高き彼をあざ笑うかのように跳梁(ちょうりょう)する。明智自身も犯人の…

2019年5月30日
乱歩を読む【9】『大暗室』
江戸川乱歩の『大暗室』は、仇敵どうしの青年たちによる闘争のサーガだ。
──物語は、海難事故を逃れた有明男爵の一行が漂流している場面からはじまる。男爵は熱病にかかり、妻・京子と遺産を託す遺言を親友・大曽根五郎に残す。しかし、大曽根は過去に男爵と京子を争って敗れたことで、男爵に復讐する機会をうかがっていた。大曽根は、舟のなかで男爵と有明家の家扶・久留…


2019年3月27日
乱歩を読む【8】『妄獣』
「浅草レビュー界の女王」であった水木蘭子は、自身をモデルとする大理石像が出品された展覧会で、その像を執拗に撫で回す異様な人物に遭遇する──。この奇怪な場面から幕を開ける本作は、タイトルが示す通り、盲目の怪人物が、蘭子をはじめ、カフェーのマダム、若く美しい寡婦、漁村の海女といった女性たちを次々に「弄び、殺し、手と足をバラバラに斬りきざんで…

2019年2月28日
乱歩を読む【7】『吸血鬼』
大実業家の未亡人・畑柳倭文子(しずこ)の周囲で次々と起きる怪事件。不気味な「唇のない男」の暗躍。「吸血鬼」のように冷酷な真犯人の恐るべき奸智に、名探偵・明智小五郎が挑む──。吸血鬼とは、墓場から蘇って生者の血を啜(すす)る死者のことである。その名を冠したタイトルは、ゴシック・ロマン調の怪奇ムードを作品に添えているだけではない。死んだと思われた人間…

2019年1月25日
乱歩を読む【6】『白髪鬼』
モンテ・クリスト伯を超えた、乱歩の生んだ復讐モンスター『白髪鬼』 江戸時代の敵討は一種の復讐だが、公の許しを得て行われたり、また赤穂浪士のように世間に美談としてもてはやされた例もある。たとえ法を犯したとしても、謀により生きるに耐えられない程の苦痛を受け、その末に恨みを晴らしたなら、人は同情を寄せることさえある。しかこの白髪鬼の仕業は報復の域を…

2018年12月27日
乱歩を読む【5】『十字路』
『十字路』と題された江戸川乱歩の小説は、昭和30(1955)年10月に、講談社の『書下ろし長篇探偵小説全集』の1冊として刊行された。本書に掲載された落合教幸(おちあい・たかゆき)氏の解説によれば、物語のプロットは渡辺剣次という人物が考え、それを江戸川乱歩が執筆したようだ。その成立過程も含め、乱歩作品の中でもちょっと毛色の違う作品とも言えるのかもしれない。

2018年11月30日
乱歩を読む【4】『影男』
『面白倶楽部』という雑誌で1年間にわたって連載された本作は、いわゆる「通俗長編」作品であり、エロとグロがふんだんに詰め込まれた、乱歩らしい作品である。影男が関わった事件を集めた連作短編といった趣もあるし、最後には名探偵・明智小五郎と小林少年も登場するなど、サービス精神も旺盛。乱歩の最高傑作! とは言わないが、乱歩の魅力を堪能できる一冊であることは…

2018年10月30日
乱歩を読む【3】『幽霊塔』
江戸川乱歩を初めて読んだのは、小学生のころだったと思う。放課後の校舎で友人たちとよく隠れんぼをやっていた。僕が隠れる場所はだいたい図書室だった。ここなら鬼に見つかるまで、ぼーっと待ったりせずにずっと本を読んでいられる。読書に集中しすぎて、隠れんぼがとっくに終わっていたことも1度や2度ではない。ここに隠れるようになったはじめの頃は、主に歴史マンガ…

2018年9月28日
乱歩を読む【2】『人間豹』
猛獣とも人間ともつかない不気味な「豹男」が、狡猾(こうかつ)な手段で若く美しい女性を次々と襲い、名探偵と対決する──時代は昭和のはじめ。夜の東京の郊外はまだ闇が広がり、街中にも得体のしれない何者かが紛れ込める雑然さがあったころです。一見、探偵小説の体裁をとりながら、華やかな大劇場では恐怖のレビューが演じられ、やがて見世物小屋の立ち並ぶ浅草界隈へ…

2018年8月31日
乱歩を読む【1】『魔術師』
明智小五郎や少年探偵団、怪人二十面相──。江戸川乱歩の作品を読んだことがない人でも、彼らの名前を耳にしたことはあるかもしれません。乱歩は大正から昭和期にかけて数多くの作品を発表した推理作家です。あまりにも有名なので、「硬い文章で読みづらい推理小説」というイメージを持つ人も少なくないでしょう。しかし、ひとたび読み始めたら、空想とも現実ともつかない…

2018年5月22日
ページをめくるたびにジワジワくる、エロティックでグロテスクな画集 『江戸川乱歩 幻想と猟奇の世界』
天井を見つめているうちに、木目が馬の横顔や竜の姿に見えてくる──。銅版画家・多賀新の作品を初めて見たとき、子どものころに味わったあの感覚を思い出しました。じっと目を凝らすと、植物や装飾品に見えていたものが人の姿をしていたり、影や背景の中から人びとの営みが浮かび上がってきたり……。多賀新の生み出す銅板画は、見つめるほどに新たな発見があり、静止しているはずの画が動き出すような錯覚に陥ります。