横溝正史 とは
戦後すぐに推理小説専門雑誌として発行され特異な存在を示し、多数の読者を喜ばせた月刊誌「宝石」を舞台に、大家・横溝正史も数々の傑作長編を発表した。「本陣殺人事件」「蝶々殺人事件」「獄門島」「八つ墓村」「犬神家の一族」「悪魔が来たりて笛を吹く」「悪魔の手毬唄」等々、名探偵金田一耕助が、其の明敏な推理力を発揮して解決していった数々の難事件、これらの本格長編は、作者の横溝正史の名を高らしめたと同時に、華麗なる推理小説ブームのなかにおいても、ひときわ燦然と輝いた傑作だったのである。「本陣殺人事件」で第一回探偵作家クラブ賞を受けた、こうした「現代もの」の本格探偵小説の他、横溝正史にはもうひとつ大きな誇示すべき財産が有る。それは「時代もの」の捕物帖人形七親分が活躍する江戸情緒もたっぷりな名作「人形佐七捕物帖」の痛快篇の数々があることである。神田お玉ヶ池の御用聞き人形佐七親分は男も惚れるようないい男、辰五郎と豆六の二人の乾分を連れての活躍には、読みだしたら止められぬ面白さがある。
(文芸評論家 武蔵野次郎)
横溝正史を読む
≪春陽文庫「時代小説コレクション」≫
横溝正史は江戸川乱歩と並ぶ日本探偵小説界の巨星であり、大正10(1921)年にデビューしてから昭和56(1981)年に亡くなるまでの間に、夥しい分量の作品を発表している。『本陣殺人事件』『獄門島』『八つ墓村』『犬神家の一族』など、いまも読み継がれる歴史的名作も数多い。
昭和40年代に巻き起こった国民的横溝ブームの際に、その旧作の大半は角川文庫に収録され、多くの作品が現在も版を重ねているため、入手困難な作品はほとんどない。ただし、それはあくまで探偵小説に限った話なのだ。
文庫本で4~50冊の作品がある時代小説については、ブームの最中でも全体の半分も文庫化されなかった。もちろん内容がつまらない訳ではないから、横溝正史イコール探偵小説というイメージが、あまりにも強過ぎたためではないかと思われる。
当時、春陽文庫が《人形佐七捕物帳》の全集(全14巻)を出していたのが目を惹くくらいで、角川文庫には《人形佐七》の自選傑作集(全3巻)と伝奇小説の代表作『髑髏検校』に『神変稲妻車』を併録した一冊が収録されたのみ、という淋しさであった。
この状況を何とかしたくて、2003年から翌年にかけて私が編集したのが、《横溝正史時代小説コレクション》(全6巻)であった。これは「伝奇篇」「捕物篇」各3巻の構成で、初刊以来、一度も文庫化されていない──中には単行本化自体がされていない──時代小説を、可能な限り収録したもの。
そのうち「捕物篇」の2冊は《人形佐七捕物帳》の未収録作品集だったが、これは2019年から2021年にかけて春陽堂書店が刊行した《完本人形佐七捕物帳全集》(全10巻)に全篇が吸収されている。今回、再刊されていない残り4冊を全6巻に再編集して、春陽文庫から刊行できることになった。もちろん、すべての作品が初の文庫化ということになる。
タイトルは順に『菊水兵談』『菊水江戸日記』『矢柄頓兵衛戦場噺』『奇傑左一平』『緋牡丹銀次捕物帳』『変化獅子』を予定している。巨匠が探偵小説のテクニックを存分に生かして描く奔放な時代小説の世界を、たっぷりとお楽しみいただきたい。
昭和40年代に巻き起こった国民的横溝ブームの際に、その旧作の大半は角川文庫に収録され、多くの作品が現在も版を重ねているため、入手困難な作品はほとんどない。ただし、それはあくまで探偵小説に限った話なのだ。
文庫本で4~50冊の作品がある時代小説については、ブームの最中でも全体の半分も文庫化されなかった。もちろん内容がつまらない訳ではないから、横溝正史イコール探偵小説というイメージが、あまりにも強過ぎたためではないかと思われる。
当時、春陽文庫が《人形佐七捕物帳》の全集(全14巻)を出していたのが目を惹くくらいで、角川文庫には《人形佐七》の自選傑作集(全3巻)と伝奇小説の代表作『髑髏検校』に『神変稲妻車』を併録した一冊が収録されたのみ、という淋しさであった。
この状況を何とかしたくて、2003年から翌年にかけて私が編集したのが、《横溝正史時代小説コレクション》(全6巻)であった。これは「伝奇篇」「捕物篇」各3巻の構成で、初刊以来、一度も文庫化されていない──中には単行本化自体がされていない──時代小説を、可能な限り収録したもの。
そのうち「捕物篇」の2冊は《人形佐七捕物帳》の未収録作品集だったが、これは2019年から2021年にかけて春陽堂書店が刊行した《完本人形佐七捕物帳全集》(全10巻)に全篇が吸収されている。今回、再刊されていない残り4冊を全6巻に再編集して、春陽文庫から刊行できることになった。もちろん、すべての作品が初の文庫化ということになる。
タイトルは順に『菊水兵談』『菊水江戸日記』『矢柄頓兵衛戦場噺』『奇傑左一平』『緋牡丹銀次捕物帳』『変化獅子』を予定している。巨匠が探偵小説のテクニックを存分に生かして描く奔放な時代小説の世界を、たっぷりとお楽しみいただきたい。
文芸評論家 日下三蔵
(近刊)『奇傑左一平』
(近刊)『緋牡丹銀次捕物帳』
(近刊)『変化獅子』
『完本 人形佐七捕物帳』
人形を思わせる色男の岡っ引き、佐七が次々と江戸の事件を解決していく推理劇。
「銭形平次」をはじめとする“五大捕物帳”の一つで、横溝自身も格別に愛着を持っていたシリーズです。最新の研究であきらかにされた全180篇を、綿密な校訂のもと初めて発表順に完全収録しました。
『合作探偵小説コレクション』
1990年代春陽文庫で反響を巻き起こし、復刊が望まれていたリレー式ミステリ・合作探偵小説がついに新版で復活!
昭和のミステリ黄金期を彩った豪華執筆陣・約80名による全64作品、全8巻の中から、横溝が参加している巻をご紹介します。
≪関連書籍≫横溝正史を辿る
【既刊】『横溝正史の日本語』~言語から読み解く横溝正史
なぜ、同じ横溝正史作品でも時代によって文章が変容するのか?
編集、校正を経て繰り返し出版される横溝正史の作品群―各書に掲載された文章を徹底比較。
ことばや表記の異なりは正史が意図したものなのか?
日本語の名探偵が解き明かす!
稿者はしばらく前から、人が自身の気持ちや感情をどのように言語化するか、ということに興味をもっている。正史の作品が「耽美趣味と謎解き」を特徴とするのであれば、その「耽美趣味」という「浪漫の衣」はどのようにして「謎の骨格」に着せられているのか、これを観察することに意義が有ろう。
(『横溝正史の日本語』はじめに より)
≪メディアサイト連載≫江戸川乱歩と横溝正史
小社メディアサイト・江戸川乱歩連載の中で横溝正史が登場した回をご紹介!