柏木 哲夫

第6回 食と川柳

 健康であるためには3つの「快」が必要であると思っています。快食、快眠、快便です。健康であるためには食事が美味しくなければなりません。夜はぐっすり眠れる必要があります。それに便通が規則正しくあることも大切です。その中でも「快食」が最も大切でしょう。これまでに私が作った川柳を分類してみると「食べること」に関するものがかなり多いことに気づきます。「食い意地が張っている」からかもしれません。食に関係する川柳を集めてみました。
・私は鰻が好きです。値が張るのでそれほど頻繁に食べるわけではないのですが、出張の時などは時々食べます。味が微妙に違います。どんな鰻屋さんが美味しいのでしょうか。
  狭いほど美味い気がするうなぎ屋さん
・友人や知人と特に目的も無くする食事と、ハッキリとした目的がある食事では緊張度が違います。仕事上のかなり難しい相談を友人にしなければならない時がありました。彼は話好きでいつもかなり一方的に喋ります。何か工夫をする必要があると思い、一計を講じました。蟹料理です。彼が懸命にカニの脚の身をつついている間に、私は要領よく、手短に願い事を伝えました。彼は「わかった」と言い、私の願い事は叶いました。その後の私の川柳
  カニ料理多弁な客を無口にし
・講演会での話を終わり、その後の懇親会で美味しい食事をいただき、ホテルの自室へ帰る前に一人でゆっくりとコーヒーを飲みたくなることがあります。レストランの片隅でコーヒーを飲みながら周りを見渡すと、いろんな光景が目に入ります。時々妙に気になる食事風景があります。そこで一句
  一言もしゃべらず4人フルコース
・もう一つ気になったフルコースですが、
  関係が不明な4人フルコース
・食べ物に子どもが登場すると面白い川柳ができます。両親とはいつも回転寿司を食べているようなので、「普通の寿司」を食べさせてやろうとの「ジジ馬鹿」発想ですし屋に行きました。出てきた寿司を見て小1が「このスシ、ジッとしてる」と言いました。素直に言ったのか、シャレて言ったのかは定かでないのですが、私の川柳が新聞に載りました。
  このすしはジッとしてるとこども言い
・食べるという行為は我々の日常生活にしっかりと根を下ろしています。それだけに川柳の題材になることが多いと考えられます。その中でも食べ物にまつわる失敗は面白いです。私の失敗を二つ紹介します。
  最悪だ さしみ弁当チンをした
  麦茶だと信じて飲んだ蕎麦のつゆ




『柏木哲夫とホスピスのこころ』(春陽堂書店)柏木哲夫・著
緩和ケアは日本中に広がったが、科学的根拠を重要視する傾向に拍車がかかり、「こころ」といった科学的根拠を示せない事柄が軽んじられるようになってきた。もう一度、原点に立ち戻る必要性がある。
緩和ケアの日本での第一人者である著者による「NPO法人ホスピスのこころ研究所」主催の講演会での講演を1冊の本に。


この記事を書いた人
柏木 哲夫(かしわぎ・てつお)

1965年大阪大学医学部卒業。同大学精神神経科に勤務した後、米ワシントン大学に留学し、アメリカ精神医学の研修を積む。72年に帰国後、淀川キリスト教病院に精神神経科を開設。日本初のホスピスプログラムをスタート。93年大阪大学人間科学部教授に就任。退官後は、金城学院大学学長、淀川キリスト教病院理事長、ホスピス財団理事長等を歴任。著書に『人生の実力 2500人の死をみとってわかったこと』(幻冬舎)、『人はなぜ、人生の素晴らしさに気づかないのか?』(中経の文庫)、『恵みの軌跡 精神科医・ホスピス医としての歩みを振り返って』(いのちのことば社)など多数。