約束はあかるすぎるんだ

なんども思い出した句を思い出してみる。

  毛布から白いテレビを見てゐたり  鴇田智哉(『凧と円柱』)

ひととこの句について話してて、ふっと、この句が、芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」の対極にある句なんじゃないかとおもった。
蛙が池に飛び込んで世界を一体化させてゆくのに対して、鴇田さんの句は、テレビとはいっしょにもなれず毛布をかぶり横になったまま「白いテレビ」を見ている。それはそのひとひとりだけが見ている白いテレビの白い画面であり、わたしはそのかれやかのじょとはいっしょにはなれず、かれやかのじょも世界と一体化できず、非かえるとして、ひとり、ひとり、毛布から白いテレビをじっとみている。
「この白いテレビってどういうことなんだろうね。テレビが白いの? 画面が白いの? いや。光? ぜんぶひかりなのかな。ひかりのなかなのかな。それとも、あの、それとも、もう、……しんじゃってたのか、きがついたら」「毎日ずーっとてれびみてたら、音きいたら、徹子の部屋だとかわかるよね。みてなくても、そこに徹子がうつってるのがわかってる。もしかしたら、まっしろかもしれなくても、音がきこえてたら、徹子の声してたらもうそれはみてるよね」「徹子」
芭蕉はこの白いテレビを見たことがあるだろうか。毛布をかぶり、かえるをわすれ、世界から忘れられ、無音の部屋で、まぶたをひらき、横になったまま、じっと白いテレビを見ている芭蕉。


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この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター