あの、あの、あっ、あさだよ

あの、つきつめないでくれよ、きめつけないでくれよ、とときどきおもう。なんにたいして、とかじゃなくて、ただふっと。
好きな詩に小池昌代さんの「夕日」がある。

  片岡くんが会いませんかと言う
  会いませんか こんど
  あ、あ、あい、あいませんか、あい、あ
  と言うので、はいと言った
   (小池昌代「夕日」『永遠に来ないバス』)

なにかけっていてきなことが片岡くんとのあいだで起こりそうなきがする。わたしはもういろんなことをきめたあとなのに。でも、片岡くんは、あ、あ、あい、あいませんか、という。ことばやメッセージや愛はけっていてきなものにならず、どこかでちぎれてゆく。あ。
ぜんぶわすれて春なんだなあとおもう。ぜんぜん行き先のちがうバスに乗って、さくらをみながらそうおもった。ときどきぜんぶをわすれたりする。どうやってここにいるんだっけとおもう。そうしてふっとちぎれた詩のことばをおもいだす。あ、あい、あいませんか。


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この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター