四月に宇宙に出発したかった

山手線に乗っていたときにとつぜん線香の香りが立ちこめてきて、なんだろう、とおもったことがある。なんだ、どうしたんだ、と。

でっかいスモークサーモンを抱きしめた男にも山手線でであったことがある。夏のことで、電車の床に、オレンジ色の鮭の汁がぽたぽたこぼれていた。幻想かとおもった。男も鮭も汁も電車も。

ぜんぶ、幻想かとおもった。山手線もわたしもスモークサーモンも。

しなない。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター