竹久夢二美術館 学芸員 石川桂子

竹久夢二と春陽堂のつながり
 大正ロマンの画家として知られる竹久夢二(本名/竹久茂次郎:たけひさ もじろう 明治17年~昭和9年/1884~1934年)【写真①】は、春陽堂(現:株式会社春陽堂書店)と深く関わりがあったことをご存じでしょうか?
 夢二は春陽堂から刊行された出版物のブックデザイナー、詩人、文筆家として足跡を残しました。具体的には同社より大正時代に創刊された雑誌の寄稿から関係がはじまり、以後は自身の著書を出版、さらに大正期の人気作家による単行本の装幀も担当しました。

①竹久夢二

夢二の生涯と芸術
 夢二といえば、世間では恋多き人生を歩んだ美人画家という印象が色濃いですが、その生涯と芸術活動を振り返ってみましょう。
岡山県邑久(おく)郡(現、瀬戸内市)に生まれ、16歳の夏に家出して上京。早稲田実業学校在学中より雑誌へ投稿し、明治38(1905)年、年末にデビューします。この時21歳でした。
 美術学校に進まず画壇に属さなかった夢二は、独学により日本の郷愁と西欧のモダニズムを自在に表現した作風で、日本画・水彩画・油彩画・木版画等を制作し、さらに「港屋絵草紙店」を開店(1914年)させて生活の芸術化を図り、デザイン分野にも力を注ぎました。
 また「宵待草」(1913年)をはじめ、詩や童謡も数多く創作し、詩画を融合した芸術を開花させ『夢二画集 春の巻』(1909年)等、57冊の著書も残しました。
 女性関係も注目され、唯一結婚した岸他万喜(きし たまき)の他に、笠井彦乃(かさいひこの)、佐々木カ子ヨ(ささき かねよ/通称:お葉)【写真②】をはじめとする華やかな恋愛遍歴は、映画や演劇の題材にも繰り返し採り上げられています。また旅を重ね、漂泊の人生を歩み、49歳11か月で亡くなるまで独自の芸術世界を形成し、今日においても大正ロマンを象徴する存在として高く評価されています。

②(夢二の恋人)左から岸他万喜・笠井彦乃・佐々木カ子ヨ

〈夢二式美人〉を描いて
 デビューしてまもない時期から個性的な女性絵を描き、その作画は〈夢二式美人〉と呼ばれ、青年子女に愛好されました。
 恋人や実在の女性をモデルにすることもありましたが、「空想から生まれた美しい娘」を表現することに心を傾け、理想の女性像〈夢二式美人〉を描き表しました。女性描写の特徴を挙げると、顔つきは少し眼を伏せたうつむきがちなポーズが多いこと、さらに髪型・服装・小物にみる装飾、加えてしぐさに至るまで、夢二の趣味が随所に散りばめられていました。シルエットはゆるやかなS字で表され、女性の曲線美と内面を映し出すようなセンチメンタルな気分を余すところなく描写しました。
 〈夢二式美人〉は、明治~大正時代を生きた女性や少女、さらに男性にとっても憧れの存在で、当時「夢二が描いたような人」という言葉は、美人を指す代表的な形容でした。夢二の絵から姿形や立ち居振る舞いを模倣し、次第に夢二が描くような外見や雰囲気を感じさせる女性も出現したほど、〈夢二式美人〉は世の中に強い影響を及ぼしました。
明治期の仕事と夢二をめぐる出版事情
 ところで〈夢二式美人〉作品を鑑賞する場合、現代では美術館等に展示される肉筆画(主に日本画)【図③】を思い浮かべますが、夢二が現役で活躍した時代は、印刷を経て雑誌や書籍などに掲載されたイラストレーションが主流で、その内容はコマ絵*1【図④】・挿絵・口絵・表紙絵が多くを占めていました。
 デビューから明治末期にかけて、夢二のイラストレーションは〈博文館〉〈実業之日本社〉〈洛陽堂〉の出版物に数多く掲載されました。デビューを飾ったのは〈博文館〉の雑誌『中学世界』【図⑤左】で、姉妹紙の『女学世界』【図⑤右】にも数多く寄稿しました。また〈実業之日本社〉の少年雑誌『日本少年』と少女雑誌『少女の友』でも筆をふるい、〈洛陽堂〉からは『夢二画集 春の巻』【図⑥】を皮切りに、相次いで画集を出版しました。
 出版物を通じて〈夢二式美人〉をはじめとする夢二画は、日本全国に広まり人気を確立しました。そして時代が大正に移ってからも、夢二は数々の出版社から仕事を依頼されました。
 さて夢二と春陽堂の出会いは、大正6(1917)年に創刊された雑誌『中央文学』が契機となりました。次回は夢二と『中央文学』【図⑦】について紹介します。

*1 雑誌や新聞の紙面上に、周囲の文章と別に独立して描かれた絵のことで、通常何らかの題があり、それに添った内容の絵。

③日本画「稲荷山」 大正10(1921)年頃

④コマ絵「とつおいつして虫をきくかな」(『女学世界』9-15掲載) 明治42(1909)年

⑤左『中学世界』十月号 明治42年(1909)年・右『女学世界』七月号 明治45(1912)年

⑥『夢二画集 春の巻』扉 再版 明治43(1910)年

⑦『中央文学』十二月号 大正6(1917)年

(写真と図は、すべて竹久夢二美術館所蔵の作品です)
夢二と春陽堂
第2回 雑誌『中央文学』と夢二の仕事Ⅰに続く
この記事を書いた人
石川 桂子(いしかわ・けいこ)
1967年、東京都生まれ。竹久夢二美術館学芸員。編書に『大正ロマン手帖──ノスタルジック&モダンの世界』『竹久夢二♡かわいい手帖──大正ロマンの乙女ワールド』(共に河出書房新社)、『竹久夢二《デザイン》──モダンガールの宝箱』(講談社)、岩波文庫『竹久夢二詩画集』(岩波書店)など。