僕はたおれていて月光の中あなたがお握りを運んできた

二十台半ばの頃、おにぎりを部屋に運んできてくれるひとがいて、そのひとはおにぎりがすきなひとだったのだが、ひとつをじぶんでだまってわたしの読書机でたべると、もうひとつをわたし用にその机のうえに置いていった。

わたしはそのあいだずっと倒れていたとおもう。それは童話の最後に魔法の風呂敷を盗んだせいで魔法のステッキにこらしめられる悪い宿屋の主人のような倒れ方だったとおもう。つまり、うつぶせで、なにかに圧迫され、それでも足をばたばたさせるような。

これからどうなっちゃうんだろうとおもった。宿屋の主人もおなじことを思っただろうか。女房は、宿屋は、俺は、これからどうなっちゃうんだろうと。魔法のステッキは容赦なくからだの端々を叩いてくる。月がひかっている。フリーのおにぎりに向けて。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター