世界中の野生動物や自然の風景を追い求めてきた動物写真家・井村淳。なかでもアフリカでの撮影は26年にも及ぶ。彼は今年の4月に、ケニアへ39回目の撮影旅行を終えて帰国した。サバンナの雄大な風景と、そこに生きる野生動物の姿をとらえた撮りおろし作品を、旅のエピソードとともにおくる。
「サファリ(Safari)」とは、スワヒリ語で「旅」という意味です。旅行者が車で動物を見にいくことは、「ゲーム・ドライブ」や「ゲーム・サファリ」と言いますが、それらを単にサファリと言うことが多く、「朝のサファリ」や「午後のサファリ」などと言います。また、広い意味でサバンナを旅行することをサファリとも言います。
マサイマラ国立保護区には100軒を超える宿があり、川沿いなどのブッシュ(茂み)の中に建っていることが多いです。前回も宿について話しましたが、もう少し詳しくご説明します。
宿のスタイルは大きく2つに分かれ、コテージタイプとテントタイプがあります。コンクリートや木造のしっかりした建造物のコテージタイプと、壁や屋根がキャンバス地でできたテントタイプに分かれます。
いずれもシャワー、トイレ、洗面台はあるので不自由なく過ごせます。テントタイプの部屋は、なかなかイメージしにくいと思いますが十分な広さがあります。いくつかのサイズがあり、一番オーソドックスなサイズは幅4メートル、奥行き5メートル+2メートル(シャワー、トイレエリア)、天井は一番高いところで2.5メートル、両脇の高さは1.5メートルほどです。直射日光が当たらないように屋根は二重になっています。
どちらかと言うと、僕はテントタイプが好きです。外のライオンやハイエナの鳴き声、カバなどが草を食む音が間近に聞こえてきて野生を感じることができます。また、もしも野生動物が突進してきたら、テントが簡単に大破してしまうだろうというドキドキも含めてサバンナの臨場感が楽しめます。
ケニアの話をすると、みなさんに必ず聞かれるサファリの食事について、その一部をご紹介しましょう。意外に思われるかもしれませんが、とてもおいしいし、見栄えがする盛りつけで出てきます。収容人数の多い大規模なロッジではブッフェ式の食事が多いのですが、今回の宿のように最大で十数人ほどのこぢんまりとしたところでは、料理がコースで出てきます。基本的には、前菜、メイン、デザートとコーヒーか紅茶という順番ですが、ディナータイムは食事の前に、まずは一杯のビールから。
朝食は「サファリ」しながら食べるので、ピクニックボックスを作ってもらい、それを車に積んでサファリに向かいます。その日に出会う動物によって朝食の時間は変わります。見晴らしが良く安全なところで車から降りて食べます。動物が何かアクションをしそうな場合は、その様子を見ながら車内で食べることもあります。朝食の内容は、毎日大きな違いはなく、数種類のパンにソーセージとベーコン、ゆでたまご、数種類のフルーツ、ヨーグルトとジュースに温かいコーヒーか紅茶もあります。これを全部食べると動けなくなりますので、好みのものを選んで食べます。
次に、昼食は宿に戻って12:30ごろからです。まれにチーターが狩りをするかもしれないというような状況のときに、宿に帰ってランチにするか、チーターの狩りを待つかを心の中で天秤に掛けます。葛藤の末、苦渋の決断で撮影に行くのです。その日はランチ抜きです。「チーターだって空腹なんだし」と、自分で自分のお腹を慰めたりします。
食事の写真はランチタイムによく撮影します。ディナータイムは薄暗くて、きれいに写らないからです。
前菜はスープやサラダが多く、前菜と同時にパンも出てきますが、焼きたてで結構おいしいです。ランチタイムのメインはパスタがよく出ます。肉料理や魚料理のときもあります。そして最後に日替わりのデザートと飲み物が出ます。
せっかくシェフがデザートを用意してくれるのですが、必ず僕は「アイスクリームはある?」と聞きます。「ちょっと待ってて」と、ウェイターが厨房に確認してくれます。数回繰り返すと、裏メニューの「アイスクリームね」とアイコンタクトで通じるようになります。宿で出されるアイスクリームは空気を多く含んだ生クリームっぽい食感です。おそらく溶けにくいのだと思います。宿のオフィスや厨房は、夜中に電源を切ってしまうので、冷凍庫内のものも若干溶けてしまいます。そして数日経つと、溶けたり凍ったりを繰り返したシャリシャリのアイスクリームになります。それが出てくると、「あ、そろそろなくなるな」と予想がつきます。
早朝や午後のサファリに出る前に、食堂にコーヒーや紅茶とクッキーなどのお菓子が用意されています。宿によっては部屋に電話がないので、朝はスタッフがウェイクアップコール(モーニングコール)がわりに部屋に来てくれます。前の日に頼んでおくと、一緒に飲み物とクッキーを持ってきてくれます。僕はホットチョコレートをよく頼みます。目覚めの一杯のココアが体に良いと、昔、人気だった生活情報番組でみのもんたさんが言っていたのを思い出して。朝ご飯までは3時間以上あるので、エナジー補給できるのがありがたいです。
サファリの宿は、スタッフたちもフレンドリーで何不自由なく過ごせるので、至れり尽くせりです。時にはサファリの草原の中に突然、テーブルとイスが並んでいることがあります。スパークリングワインやビール、ソーダなどのドリンクの他に、簡単なおつまみも用意されています。「サンダウナー」といって日の入りを見ながら乾杯するというおしゃれなサプライズをしてくれることもあります。そのおもてなしの気持ちが嬉しくほっこりします。
午後のサファリを終えて宿に帰るのは、いつも薄暗くなったころです。部屋でシャワーを浴びて一息ついたら、ディナーの時間より少し早めに部屋を出ます。雨の日以外は、宿が庭で焚火をしてくれています。その火を囲むようにイスが置かれているのですが、火に魅せられた虫のように宿泊客たちが集まってきます。その日に見た動物の話をする人たちや、ぼーっと炎を見つめている人がいます。そんな人たちを眺めながら、僕はナッツをつまみに一杯やります。
ディナーを終え、アスカリ(ガードマン)にエスコートしてもらいながら自分のテントに戻ります。カメラの充電や、撮影したデータをパソコンに保存したのを確認してからベッドに入ります。すると、足下に湯たんぽが入っています。夜から明け方にかけて気温がぐんと下がるので、朝まで温かい湯たんぽは嬉しいです。湯たんぽといっても、布のケースに入った日本の水枕のようなゴム製の容器です。気がつくとお腹に乗せていることもあります。
≪≪著書紹介≫≫
『ALIVE Great Horizon 』 (春陽堂書店)井村 淳(著)
アフリカ、ケニアの動物たちを撮り続ける、カメラマン・井村淳の集大成!厳しい自然の中で生きる動物たちの日常を切り取った写真は、まるで人間の家族の姿を映し出しているかのよう。
ライオン・チーター・ゾウ・シマウマ動物たちの温かいまなざしが感じられる写真集。
アフリカ、ケニアの動物たちを撮り続ける、カメラマン・井村淳の集大成!厳しい自然の中で生きる動物たちの日常を切り取った写真は、まるで人間の家族の姿を映し出しているかのよう。
ライオン・チーター・ゾウ・シマウマ動物たちの温かいまなざしが感じられる写真集。
┃この記事を書いた人
井村 淳(いむら・じゅん)
1971年、神奈川県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。風景写真家、竹内敏信氏の助手を経てフリーになる。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。チーター保護基金ジャパン(CCFJ)名誉会員。主な著書に『流氷の天使』(春陽堂書店)、『大地の鼓動 HEARTBEAT OF SVANNA——井村淳動物写真集』(出版芸術社)など。
井村 淳HP『J’s WORD』http://www.jun-imura.com/
井村 淳HP『J’s WORD』http://www.jun-imura.com/