年賀状がだせなくてもまだ続いてく世界
年も明けたのに、わたしはまたまだじぶんが去年にいるようなきがして、うろうろしていた。
いまのじぶんならどんな本を読むだろうなと本棚のまえをいったりきたり、背をのばし、かがみ、棚のなかを覗きこんだりしていた。
そうやって、本棚から、ブローティガンの『不運な女』という本を持ってきた。
「こんにちは、といってみてよかったわ」と彼女はいった。「あなたのような人に会うことは、そうしょっちゅうはないもの」(ブローティガン『不運な女』)
旅をする男の話だ。その旅は、失敗に終わるだろう。さいごに待っているのは敗北で、男は旅のあいだもずっと脱線しつづける。菓子パンの話をしたり龍の話をしたりして。
男は旅のことを日本製のノートに書き続ける。1982年のちょうど今くらいの時期だ。
逃げても逃げても後につづいていく世界がある。そんなことをブローティガンは教えてくれる。
年賀状を横から見る世界。逃げてもあとがある世界。
言葉はなにもないところに咲く花々。あなたを愛している。(ブローティガン『不運な女』)