はい、と答える 時をかけたくないのかも

むかし、「世界最後の日に、ここにいたい、どこにもいきたくない」といっていたひとがいて、この世界には時をかける少女がいるいっぽうで、時をかけたくないひともたくさんいるんだろうなあ、と思ったことがある。

はい、というのはかんたんなことだ。はい、ということで時間を駆けてゆくこともできる。でも、あなたたちが時間を走ってゆくなかで、わたしは時をかけたくなんかないんだよ、という時をかけないひとたちもいる。ときめかないわけではない。ただ、時の校庭でゆっくりしていたり、すわってやすんでいたりもする。ワープもしない。タイムリープよりさっきのごはんのことをかんがえている。

だれもが、未来から待たれたいわけでもないし、走っていきたいわけでもない。しばらくはまだ、ここにいたい。いさせてほしい。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター