「あの星にちょっと忘れものをしてきたよ」

と気軽に星をいったりきたりする未来がそのうちくるんじゃないかなとおもう。

家にランドセルわすれた、とかでなく、あの星にランドセルわすれた、と星単位でわすれものをめぐる会話をする日が。

「じてんしゃを忘れたのは、あの星ね」

「うん。そう」

カレンダーに、来週あの星にじてんしゃをとりにいく、と書き込む。予定表も、だんだん、星があふれてくる。

もちろん、星にかんするおっちょこちょいのひとで、たいせつな会議だったのに、べつの星についてしまうひともいる。そのひとは星にかんしてまちがえたのだ。でもむかしってこういうことなかったよなあ、地球一択だったから、とゆっくりまわる巨大なステーションでわたしはおもう。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター