鼻と鼻こすりあわせる夢十夜
困ったことはよくやってくるのだが、よく困ったことがあると漱石を読んでいる。
たぶん漱石の小説は、ずっと、困ってしまったひとたちをめぐる小説で(猫だって人との違いに気づいてしまって困っていた、先生も淋しくって困っていた、百年待っていてくださいと女から言われた男も困っていた、代助もかのじょのことがほんとうに好きなのかどうかわからず困っていた)、困ったひとたちが〈どう生きてみたか〉が描かれている。
困ってもなんとかやっていきましょうよ、たとえ脳が焼き焦げても。
それが漱石なんじゃないか、とおもう。
代助は真っ赤な電車に乗っている。ごおごお燃えている。盛っている。終わりかもしれない。それでもさいごまで行ってみようと、かれは、おもっている。