巨大なわすれものをして家へ帰るどうぶつたちが待ってる家に
なにかを致命的にわすれているのだがそれを思い出せない。
わたしは座ったままこめかみをさわったりしていたが、思い立って、ひとに電話をかける。なんかわすれてるんだけど思いだせない、でもとってもだいじなものだとおもう、どこかにはもうあって、たぶん思い出されるのをまってるとおもう、という。
するとあいては、まってるってだれが? いまおきたんだけど、という。
なにか巨大なわすれものをしてるきがするんだけど、というと、どうしてわたしがしってるとおもうのそれを、というので、いやしってるのはぼくなんだけど、しらないひとに、なんにもおもいだすこともしようとしないひとに電話したらおもいだすかとおもって、とわたしはいう。
あなたさ、いや、あのねえ、ふだんよくいろんなことおもいだしてるけど、とあいてはいう。でも、おもいだすことに大小なんてなかったわ。ともかくなんにもおもいだそうとしないひとは、あなたよ。
わたしはでんわをきる。
そのすぐあとにまってたように、でんわがかかってくる。わたしは、はい、はい、わかりました、という。すぐいきます、すぐいけるとおもいます、という。ちょっとわかってたんです。
バスに乗っていると巨大な電波塔がみえる。あの電波塔の横をこれからバスは通り過ぎる。電波塔のしたには奥にながい公園があって、冬にわたしはその公園のベンチにじっと座っていた。どうやっても解決できない問題があって、座ってたらなにか浮かぶかなあとそのときのわたしはあきらめながら思っていた。わたしの横のベンチには、おとこのひとふたりが座っていて、おたがいに、ありがとう、と言い合っていた。なにか大事なことがおわったんだよ、ふたりのちからで、というかんじで。ありがとう。ありがとう。
巨大な忘れ物はどんどんわたしの奥にもぐりこんでいく。むかし、三匹の熊が仲よく暮らす童話を読んだよな、とわたしはおもう。あの童話のスープがとてもおいしそうだった。でもどんなスープかおもいだせない。すごくあついやつで、クリームがたくさん入ったやつだ。木のスプーンでゆっくりたべる。みんなで。