<木綿・染料・顔彩>

「ともかくも生かされてはゐる雑草の中」 山頭火
 十一月六日
秋時雨、雨の音と百舌鳥の声と柿落葉と。
M君からの返信はありがたかった、ほんとうにありがたかった。
あまり沈鬱になるので、キレイ一升借りて、イワシ十銭ほど買うてきて、チビチビ飲みはじめたが、そして待つともなく樹明君を待ってゐたがやってこないので、学校まで出かけて訳を話したが、とても忙しくて行けないといふ、そこで私自身を持てあまして街へ出てみたけれど面白くないので、鮨を食べて戻って、すぐ寝た。……
酒飲みが酒が飲めなくなっては、──あれほど好きだった酒があまり欲しくなくなっては、──それが今日の私だった、明日の私であるかも知れない。
心身不調、胸苦しくて困つた、心臓がいけなくなつたのであらう、ですね!
〇持って生まれて来たものを出したい、その人のみが持つもの、その人でなければ出せないもの、それを出しきるのが人生だ、私は私を全的に純真に俳句しなければならない、それを果たさなければ死んでも死ねないのだ。
〇食慾がなくなるのがさみしい、私の大きい胃袋は萎縮しつつあるのか、ルンペンの精力がなくなりだしたのか。
     病  中
  ・ともかくも生かされてはゐる雑草の中
  ・をんな気取つてゆく野分ふく
  ・蛇がひなたに、もう穴へはいれ

(出典:山頭火文庫 3巻 村上 護 編『山頭火 其中日記』)

 《書籍紹介》 
山頭火文庫 3巻『山頭火 其中日記』(春陽堂書店)村上護・編
種田山頭火が50歳のときに、山口県小郡(現・山口市)に結庵した「其中庵(ごちゅうあん)」での記録「其中日記」を収録しています。地名索引と人名索引付きです。


植田 莫(うえだ・ばく)
1946年生まれ。画家。札幌在住、莫工房主宰。東京・大阪でグラフィックデザイナーとしてすごすが、良寛の心と山頭火の感性に憧れて画家に転身する。油絵で画家の道を歩むが染料との出会いで、その発色の面白さ、透明感の美しさに魅せられて以後天竺木綿の生地や和紙に、染料を刷毛染め、筆書きし、顔彩で細部を描き加える独自の絵画で個展活動をしている。

植田 莫HP:http://www.baku.cc/


この記事を書いた人
春陽堂書店編集部
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