掲出句は「触処(しょくしょ)生涯十七句」と題して昭和五年三月号の「層雲」に発表。「分け入れば水音」「すべつてころんで山がひつそり」などと同時期の作である。句友に出したハガキには「こんな境地からは一刻も早く脱却したいものです」と書いているが、なかなか脱却できないでいた。聖と俗との狭間にあって呻吟(しんぎん)している状態とでもいうべきだろう。
山頭火の生涯を見ていくとき、最も注目すべきは何もかも捨てることに腐心した生き方だった、と私は思う。けれど捨てる以上に執着するものがあるから荷物は一向に軽くならない。それも「まへうしろ」への振り分け荷物。彼は旅に生きる行乞者だから、掲出句はおのずと流転の山頭火を象徴するものになっている。
(出典:山頭火文庫 村上 護 編『山頭火 名句鑑賞』)
《書籍紹介》
山頭火文庫 別巻『山頭火 名句鑑賞』(春陽堂書店)村上護・編
山頭火研究の第一人者・村上護による解説本。2007年に出版した単行本文庫化。自選句集『草木塔』を中心に、その背景・表現方法など創作の軌跡を解説。放浪の俳人種田山頭火の魅力に迫る──。
山頭火研究の第一人者・村上護による解説本。2007年に出版した単行本文庫化。自選句集『草木塔』を中心に、その背景・表現方法など創作の軌跡を解説。放浪の俳人種田山頭火の魅力に迫る──。
植田 莫(うえだ・ばく)
1946年生まれ。画家。札幌在住、莫工房主宰。東京・大阪でグラフィックデザイナーとしてすごすが、良寛の心と山頭火の感性に憧れて画家に転身する。油絵で画家の道を歩むが染料との出会いで、その発色の面白さ、透明感の美しさに魅せられて以後天竺木綿の生地や和紙に、染料を刷毛染め、筆書きし、顔彩で細部を描き加える独自の絵画で個展活動をしている。
植田 莫HP:http://www.baku.cc/