「ねむけっていいね」「いいよね」雨と雨

ずっと雨だった。

たまたままちを歩いていたら、フリースペースに、泉が流れていたり木が生えている長い机をみつけて、そこに座ってぼんやりしていた。雨がふっている。さいきん、傘をなくした。雨がふっている。ぜんぜん、なんだか、なんにもおもわない。

「ねえ、やぎもとくん、ねむたいときって、いきたいもしにたいも思わないよね。ただ、ねむたい、わたしという単位がひとりでもみんなでもかまわない、いろんなことがかまわないから、ただねむたい、とおもう、そういうきもちにならない? いきたいとかしにたいの二択じゃなくて、いきたい・しにたい・ねむたいの三択になったらいいなって、おもうんだけれど」と言われたことがあった。ふとそんなことを思い出す。その日も雨がふっていたのか。そのときの僕はどんな傘だったんだろう。

帰りにそのまま傘を買いに行ったら背負える傘があって、「この傘、背負えますね」と言ったら、「この傘、背負えるんですよ」と言われる。「どうぞ、背負ってみてください」と言われて、付属のベルトをからだにかけて背負ってみる。「剣みたいですね」とわたしは言う。これからたたかいにいくみたいだ。素のかっこうで戦場にほうりだされたひと。剣みたいな傘をこのまま買うことになるのかなあとおもいながらぼんやり鏡をみていた。でもじんせいはときどき踏み込んでみるひつようがある。おいで、と言われなくても。

「こういうことってはじめてでしょ」と昔、相手から言われたことがあったことを思い出した。過去の相手は息をしている。雨。剣みたいな傘をとおして思い出しているうちに、「あの、」と言われて、今の僕に。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター