冷やし読書、はじめました。 2019

あなたは夏のひとだね、といわれたこともあるし、あなたは冬のひとだよね、といわれたこともある。つまり、どちらでもよいというか、どうでもいい存在なんだということなんだろう、とおもう。

でも、ときどき冷凍庫のなかに顔をつっこんでなにもしないでいるときがあるので、冬のひとなんじゃないかと思うときも、ある。

なぜひとはときどき冷凍庫にかおをつっこむのだろう。なんでだろ。

わたしはあるときこのくせをやめようとおもって、乳離れのように、冷凍庫の全面にからしを塗っておいたことも、あった。もしかしたら前世は、アイスパックだったのかもしれない、とときどきおもう。すごくかっちりとして、真夏にときどきわすれられてだらしなくぐったりとなっているアイスパック。そういうのを思い出してもらえたらいい。わすれないでほしい。

わたしは夏になると、よく冷やし読書を、する。暑いときは、わたしのからだよりも、本を冷やせばいいんじゃないかという発想から、冷やし本はじめました、という本をひやした〈冷やし読書〉というのをやっていたのだが、これは、夏に迎合しているのかそれとも冬に恋こがれているのかよくわからない。わたしは、やっぱり、夏のひとにも、冬のひとにもなれないのかなあ。どうでもいい季節にたいいくすわりしているにんげんなのかもしれない。体育座り。

書店に《冷やし読書はじめました》というのぼりがたてばいいのになあ、とおもっている。でも、せかいはなかなかかわらない。それでも、だれかが、しんや、冷蔵庫に文庫がはいってる! とさけんでる。きこえる。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター